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福岡地方裁判所 平成5年(行ウ)17号 判決

原告 株式会社西福岡自動車学校

被告 福岡県地方労働委員会

補助参加人 全国一般労働組合福岡地方本部

主文

一  補助参加人を申立人、原告を被申立人とする福岡労委平成三年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について被告が平成五年六月二一日付けをもってなした別紙命令書記載の命令中、主文第一項を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、参加によって生じた費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を補助参加人の各負担とし、その余の費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実及び理由

第一請求

補助参加人を申立人、原告を被申立人とする福岡労委平成三年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について被告が平成五年六月二一日付けをもってなした別紙命令書記載の命令(以下「本件命令」という。)中、主文第一項及び第二項を取り消す。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、労働組合の組合員に対してなされた原告の懲戒処分について、組合員らの属する組合の上部組織である補助参加人が被告に対し不当労働行為救済を申し立て、被告がこれを一部認容する旨の救済命令を発したところ、原告がこれを違法であるとしてその取消しを請求した事案である。

二  事実経過等

1  原告は、肩書地において、公安委員会の指定を受けて自動車教習所を経営する株式会社であり、平成二年当時、その従業員総数八三名中、道路交通法に基づく仮免許検定試験及び本免許検定試験を実施する技能検定員資格者(以下「検定員」という。)が一五名、技能指導員資格者が六三名、学科指導員資格者が八名在籍していた(延数)。また、補助参加人は、昭和三七年八月二七日、福岡県内の中小零細企業の労働者によって結成された個人加盟方式の労働組合である。

原告の従業員四五名は、昭和四九年四月、補助参加人の下部組織である総評・全国一般労働組合福岡地方本部福岡支部(以下「支部」という。)に加入し、同時に同支部西福岡自動車専門学校分会(その後、原告の商号変更に伴い、「同支部西福岡自動車学校分会」と変更。以下「分会」という。)を結成し、平成二年当時の分会員数は二九名であった。

なお、補助参加人の名称は、平成三年九月二九日の定期大会において、「総評・全国一般労働組合福岡地方本部」から現在の名称に変更され、これに伴い、支部、分会とも、名称の冒頭の「総評・」が除かれて現在に至っている。

(甲一、四一、四二、一〇六、乙二、丙一〇、二九、弁論の全趣旨)

2  平成二年四月二日、補助参加人及び支部は、原告に対し、平成二年度の賃上げ、定年延長等の労働条件の改善、コンピューター導入による労働条件の悪化の是正の三点につき要求書を提出し、同月一二日午後二時一五分から三時まで開催された第一回団体交渉において要求内容の説明を行った(甲一二二、丙一、三八)。

同年五月九日午後二時一五分から三時まで開催された第二回団体交渉において、原告は、「売上げは上がっているが、指導員一人当たりの卒業生は減っており、有利になる数字があるか否かを検討する。結果として昨年の回答額を下回らないように努力する。」旨回答したが、補助参加人は有額回答がないことに不満を表明した(甲一二二、乙一〇の2、丙一)。

この第二回の団体交渉の後、補助参加人の書記次長浦俊治(その後同年九月補助参加人の書記長、平成四年九月二八日同執行委員長に各就任。以下「浦書記次長」又は「浦書記長」という。)は、原告の総務部長梅谷豊(以下「梅谷総務部長」という。)に対して電話を掛け、次回の団体交渉を平成二年五月一八日に行いたい旨申し入れたところ、梅谷総務部長は、賃上げ額の試算ができていないので、当日団体交渉を行っても具体的な金額の提示はできないと述べたが、浦書記次長は、それでもよい旨答えたので、同日の団体交渉が設定された(甲一〇七、一二二、乙三、弁論の全趣旨)。

同月一八日午後二時一五分から三時まで開催された第三回団体交渉において、原告は、賃上げ額の検討が遅れていることを説明したうえで、同月二九ないし三一日のいずれかの日に、内容も含めて有額回答をする旨労働組合側に伝えたところ、浦書記次長は、「次回有額回答がないと赤旗・腕章をと思っている。」旨述べた(甲一〇七、一二二、丙一)。

3  分会は、同月一八日の原告との第三回団体交渉終了後、浦書記次長も出席のうえ、職場集会を開催し、この日の団体交渉の結果について分会員に報告をするとともに以後の闘争方針について議論した結果、賃上げ交渉の促進などを目的として赤旗を掲揚し、腕章を着用して就業すること(以下「本件腕章着用闘争」という。)を決定し、支部の了解の下、翌一九日、原告に対して右の趣旨を通告したうえ、午前九時二五分から、交通量の多い通りに面した原告の表門及び裏門付近の原告敷地内において、支部名ないし分会名(ただし旧名称)を白抜きにしたポール付きの赤旗各一本を正門脇バイク置場の鉄柱や裏門横鉄柵の支柱に結束するなどの方法で掲揚し、午前一〇時から、分会員各自において分会名を記載した腕章を左上腕部に着用して就労した。

これに対し、原告は、分会に対して、同日午前一一時及び午後一時に口頭で赤旗の撤去及び腕章の取り外しの警告を行い、同日午後二時三〇分には、同日午後三時までと時間を切って同様の警告を行うとともに、同時刻までに赤旗の撤去をしないときは、原告においてこれを行う旨通告し、分会がこれに従わなかったことから、同日午後五時一〇分過ぎころこれを撤去した。

その後も、分会は、表門及び裏門に赤旗を掲揚し、原告がこれを撤去して返還すると再びこれを掲揚するといった応酬が同年九月一〇日まで繰り返された。

原告は、補助参加人及び分会員らに対して、かかる赤旗の掲揚及び本件腕章着用闘争は就業規則に違反する行為であって懲戒処分の対象となる旨、口頭又は文書で、あるいは原告内の黒板に記載する方法で、繰り返し警告した。(争いのない事実、甲六ないし一一、三三、一〇七、一一一ないし一一七、一二二、一三三、一四三、乙一〇の2、一一の2、丙一)

4  同年五月三〇日午後二時一五分から三時まで開催された第四回団体交渉において、原告は、二九名の分会員平均で九五〇七円の賃上げの回答を示したところ、補助参加人は、分会員中最低の者の賃上げ額が約六八〇〇円であったことを問題として、これを約九〇〇〇円にするよう要求し、これを原告が受け入れなかったため、その後の団体交渉における賃上げ交渉は平行線を辿った。

なお、原告の右回答の時期は、例年の春闘時における回答時期と異ならないものであった。

(甲一〇六、一二二、乙一〇の2、丙一)

5  同年六月七日午後二時五分から四時五五分まで、原告において係長以上の従業員の出席する実績検討会議が開催されたところ、分会員一一名は午後三時から腕章を着用して入室し、原告が腕章の取り外しを命じると右一一名全員が退室したが、出席しないと職場放棄となる旨告げられ、腕章を外して右会議に出席した。

その際、原告は、本件腕章着用闘争が就業規則違反であり、サービス業である原告の業務に腕章を着用して従事することで業務に支障を生じることから、かかる本件腕章着用闘争を中止するよう分会員に対して要求した。

同日、補助参加人及び支部は、原告に対し、同年五月三〇日の賃上げ回答が低額回答であること及び本件腕章着用闘争が就業規則違反であって懲戒処分の対象となる旨の原告の警告に対する連名の抗議文を提出したが、その中には、「尚、当労組は、今後貴社の不当労働行為・労働組合敵視が続けられる場合は、法律に基づくあらゆる争議行為を行うことを通告する。」との記載及び「問題の早期解決に向けて充分な時間を持って話し合いが出来るよう昼休みの団体交渉でなく、就労時間終了後団体交渉が持たれるよう申し入れる」との記載がなされていた。

(甲一二二、丙一、三、証人牧園)

6  同年六月一二日午後二時一五分から三時まで開催された第五回団体交渉において、補助参加人が賃上げについて最低額を引き上げるよう要求したのに対し、原告は福岡県下の実情などを説明して右要求には応じられないとの態度を示し、組合側の申入れにより更に団体交渉を継続することを合意して終了した。

右団体交渉終了後、原告は、分会員で検定員資格を有し、検定業務に従事していた浦正美(以下「浦分会員」という。)に対し、検定業務を停止し、検定員手当を支給しない旨同日付け文書をもって通告し、また、翌一三日には、同様に分会員で検定員資格を有し、検定業務に従事していた近藤好昭(以下「近藤」という。)に対し、検定業務を停止し、検定員手当を支給しない旨同月一二日付け文書をもって通告した(以下、併せて「検定業務停止処分」という。)ことから、補助参加人及び支部は、同月一三日、右処分の撤回を連名の文書をもって申し入れた。

また、同日、原告は、道路交通法九八条二項二号(ただし、平成四年法律第四三号による改正前のもの。)の公安委員会の審査(以下「検定員資格審査」という。)の受審を希望していた分会員の佐々木俊郎及び森田秀久(以下「佐々木」、「森田」という。)に対し、右審査を受審するのに必要な推薦を行わない旨通告した(以下、併せて「受審拒否処分」という。)。

(争いのない事実、甲一二二、丙一、四の1、2、五、六)

7  補助参加人は、平成二年六月一五日午後二時一五分から三時まで開催された第六回団体交渉において検定業務停止処分及び受審拒否処分を撤回するよう要求したが、原告がこれに応じなかったため、同月一九日、被告に対して労使関係についてのあっせんを申請し、労使双方で話し合いが持たれた。

しかし、双方の対立が顕著であったため、被告は、同年七月三日、あっせん案を出さずに右手続きを打ち切った。

(争いのない事実、甲一二二、丙一、七の1、2)

8  補助参加人及び支部は、同年六月二〇日、同年度の夏季一時金についての要求書を提出したが、同月二七日午後二時一五分から三時まで開催された第七回団体交渉において話し合いがつかなかったことから、同年七月六日、八日の両日にわたって福岡市城南区田島二丁目所在の原告代表取締役社長三戸道雄(以下「三戸社長」という。)の自宅周辺において原告の労務政策を批判する内容の支部名義のビラを配布し、また、支部は、同月七日午後六時四五分ころから七時三〇分ころまで、原告の労務政策に対する抗議を目的として、原告の許可を得ないで原告の敷地内において集会を開催した。

原告は、右無許可集会について、同月九日、当時の分会長石橋義則(以下「石橋分会長」という。)に対し、就業規則に違反する行為であって、懲戒処分の対象となる旨文書で警告した。

(甲一二、一三、八〇、一〇七、一二二、一二五、一四二、丙一、三九)

9  同日、補助参加人は、検定業務停止処分の撤回、受審拒否処分の撤回及び誠実な団体交渉実施等を内容として、被告に対し、不当労働行為救済申立を行った(福岡労委平成二年(不)第七号不当労働行為救済申立事件、以下「七号事件」という。)。

(甲一二二、乙一)

10  原告は、同月一八日午後二時一五分から三時まで開催された団体交渉において夏季一時金の有額回答を同月二五日に行う旨告げて補助参加人の了承を得、同日午後二時一五分から三時まで開催された団体交渉において夏季一時金の有額回答を示したうえで、同年八月二日、分会員を除く従業員に対しこれを支給した。

補助参加人はこのことに関し、同日午後二時一五分から三時まで開催された団体交渉において、「第二回目の団体交渉の最中に非組合員に対して夏季一時金を支払うとはどういうことか」などと原告に抗議した。

その後の同月八日、補助参加人は原告に対し夏季一時金に関する原告の回答を了承する旨通知し、これを受けた原告は、同月一一日、分会員に対して夏季一時金を支給した。

なお、原告は、同年二月五日から四月七日までの間に実施された早朝・休日教習に従事した従業員のうち係長以下の者全員(分会員船越幸光〔以下「船越」という。〕を含む。)に対し、激励金の名目で一律八万円を夏季一時金と併せて支給した。

(甲九七ないし九九、一〇九、一二二、一二五、丙九、三九、弁論の全趣旨)

11  分会は、原告の労務政策や検定業務停止処分や受審拒否処分などに対して抗議する目的で、同年八月四日に原告事務所から三戸社長の自宅まで抗議デモを行い、三戸社長宅周辺にビラを配布するなどし、また、同年九月一日にも、非組合員中心になされた激励金支給をも抗議の対象として加えて、同様にデモ行進を行い、ビラを配布した。

一方、原告は、原告の非組合員で構成される社員相互間の親睦団体である社友会の発行する社友会ニュースにおいて、社友会の質問に答えるとの形式で補助参加人の行為に対する批判を行った。

(甲八三、一〇五、一〇七、一二二、丙一五ないし二〇、弁論の全趣旨)

12  同年八月二七日午後八時一〇分から九時一〇分まで開催された団体交渉において、補助参加人は夏季一時金の査定の方法につき原告に対して説明を求め、原告はこれに応じた。右団体交渉終了後、原告は、昭和六三年一一月二日に原告と補助参加人及び支部との間で締結されていた就業に関する労働協約(変形労働時間制を実施する際には、目的・期間・具体的運用方法について労使間で事前協議することなどを内容とする労働協約。以下「本件労働協約」という。)を、平成二年一一月二日の期間満了とともに失効させる旨通告した。

同年九月一三日午後八時一〇分から九時一〇分まで開催された団体交渉において、補助参加人が本件労働協約の更新拒否について説明を求めたところ、原告は、同年七月七日の無許可集会を開催したり、原告を誹謗中傷するビラを配布する等したため、組合との信頼関係が保てなくなった結果である旨説明した。

(甲八四、八五、一二二)

13  分会は、原告との労使関係が悪化していく状況を打開するため、同年九月一一日、それまで継続してきた赤旗の掲揚を中止した。

しかし、原告は、同月一九日に賞罰委員会を開催し、分会員の春闘における赤旗掲揚及び本件腕章着用闘争等に対する処分について検討し、分会を指揮して赤旗掲揚行為及び本件腕章着用闘争を指示し、同年七月七日にも原告に無断で原告の敷地内で集会を開催した行為について、分会役員六名を譴責処分とし、また、その余の分会員二三名の同年五月一九日から同年九月一〇日までの間の本件腕章着用闘争及び再三の指示・警告にもかかわらず腕章着用を中止しなかった行為について戒告処分をすることとし、同月二五日付けで、分会員らに対し通告した(以下「第一次懲戒処分」という。)。

なお、第一次懲戒処分に関する被処分者、処分の理由及び内容並びに関係する就業規則の内容は、別紙命令書中の理由第2、2、(18)記載のとおりであり、右の戒告処分は、原告の就業規則に定められた懲戒処分のうち二番目に軽いものであり、賃金査定に影響を及ぼさないものであった。

(争いのない事実、甲二、四、五、一二二、一二四)

14  補助参加人及び支部は、連名で、同月二七日、原告に対し第一次懲戒処分の撤回を求め、右処分等に関する団体交渉の開催を要求するとともに、従来からの懸案につき前進が見られれば腕章着用はいつでも中止する準備がある旨通告し、右前進が認められない限り腕章の着用闘争を継続する旨を明らかにした。

原告は、同月二九日に分会員各自に宛てて、本件腕章着用闘争が就業規則に違反し、懲戒処分の対象となる行為である旨の警告書を交付し、また、同年一〇月六日には、本件腕章着用闘争に加えて、第一次懲戒処分において分会幹部に対し提出を要求した始末書及びその余の分会員に対し提出を要求した反省文(以下、併せて「始末書等」という。)を提出しない行為が就業規則に違反し、懲戒処分の対象となる行為である旨の警告書を交付した。

補助参加人及び支部は、連名で、同月一一日、第一次懲戒処分の撤回を求めるとともに原告の労働組合敵視策に抗議し、併せて右処分の撤回等に関する団体交渉の開催を要求する旨の文書を原告に交付し、これを受けて同月二七日午後二時一五分から三時まで開催された団体交渉において、検定業務停止処分等について原告と交渉した。

(甲一六、一七、一二二、丙三五、三六、三九)

15  原告は、前記同年一〇月六日以降も、同月二〇日、同年一一月二日、同月一九日、同年一二月二二日、平成三年一月一二日、同年二月九日及び同年三月一六日の合計七回にわたり、本件腕章着用闘争及び始末書等の不提出行為が就業規則に違反し、懲戒処分の対象となる行為である旨の警告書を分会員らに交付した。

(甲一八ないし二九、一二二)

16  この間、原告と補助参加人との間では、平成二年一一月一六日、同年一二月八日、平成三年二月一六日、同年三月一三日のそれぞれ午後二時一五分から三時まで開催された団体交渉において、冬季一時金や、変形労働時間制の導入について交渉が行われ、また、これと併行して、被告における七号事件の証拠調等の手続きが継続し、順次証人の審問が実施された。

補助参加人は、七号事件について、平成二年一一月二七日、船越を除く分会員全員に対し激励金相当額を支給せよとの救済を、平成三年三月二六日付けで、浦分会員及び近藤に対し速やかに検定員資格の維持に必要な一切の措置を講ずべき旨、佐々木及び森田に対し慰謝料各一〇〇万円を支払うとともに、速やかに検定員資格審査を受けさせこれに必要な一切の措置を講ずべき旨の救済をそれぞれ追加して申し立てる一方、同日、申立て中の誠実な団体交渉を求める部分を取り下げた。

(甲一一九、一二二、一二九、丙三一、三九)

17  同年四月四日午後二時一五分から三時まで開催された団体交渉において、補助参加人は、平成三年度の春闘要求書を提出し、内容説明を行うとともに、平成二年度の春闘については原告の示した賃上げ回答をもって妥結したい旨及び本件腕章着用闘争を終了する旨を原告に告げ、原告もこれを了解した。

分会は、これを受けて、同月五日本件腕章着用闘争を中止した。

(甲三一、一二二、丙三九)

18  原告と補助参加人との間で被告において争われていた七号事件については、平成三年三月二六日に最後の証人の審問が行われた後、和解交渉を経て、同年五月二日、「労使双方は、今後の経営を取り巻く環境が厳しさを増すことに鑑み、本件の発生により生起した一切のいきがかりを氷解し、将来の正常な労使関係と社業の発展を図るため、下記のとおり和解協定する。」との前文の下に、(一)原告は、浦分会員及び近藤の検定員資格の維持に必要な一切の措置を直ちに講じる、(二)原告は、検定員資格審査の受審者の推薦にあたっては、本人の希望、適性等を考慮し従業員全て公平に取り扱う、(三)補助参加人は、分会が同盟罷業を行う場合は、同盟罷業開始の少なくとも三六時間前までに原告に書面をもって通告するものとし、当事者双方は、速やかに右内容を労働協約として締結する、(四)補助参加人は、速やかに七号事件の申立てを取り下げるとの内容の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。

同月一八日、原告と補助参加人との間で本件和解の成立を受けて懇親会が持たれ、原告からは三戸社長、常務取締役松尾一郎(以下「松尾常務」という。)及び自動車学校長牧園昭(以下「牧園校長」という。)が、また、補助参加人側からは浦書記長、石橋分会長、副分会長藤川義礼、佐々木、執行委員中田富久、同森田及び分会会計近藤がそれぞれ出席した。

(甲一二二、一三八、乙一、丙四六、弁論の全趣旨)

19  原告は、同年六月八日に賞罰委員会を開催し、平成二年九月一一日以降の分会員らの本件腕章着用闘争行為及び第一次懲戒処分において命じられた始末書等の不提出行為を理由として分会員らに対する懲戒処分を行うことを決定し、これを平成三年六月一〇日付けで分会員らに対し通告した(以下「第二次懲戒処分」という。)。

補助参加人は、同月一八日午後二時一五分から三時まで開催された団体交渉において、右懲戒処分について争う旨告げたところ、原告は、被告において和解が成立したのは補助参加人が申し立てた事項についてのみであり、就業規則違反としての本件腕章着用闘争については筋を通す旨回答した。

なお、第二次懲戒処分に関する被処分者、処分の理由及び内容は、別紙命令書中の理由第2、2、(22)記載のとおりであり、第二次懲戒処分において選択された譴責処分は、賃金査定に影響を及ぼすものであった。

(争いのない事実、甲二、一四、一五、一二二、一三二)

20  補助参加人は、同年八月一九日、原告に対し、第一次及び第二次懲戒処分をいずれも撤回し、右各処分がなかったものとして取り扱うことを命じる旨並びに陳謝文の交付及び掲示を命じる旨の不当労働行為救済を求める申立てを被告に対してした(福岡労委平成三年(不)第六号不当労働行為救済命令申立事件)。

被告は右申立てに対し、平成五年六月二一日、別紙命令書記載のとおりの本件命令を発し、本件命令は同年七月二八日原告に送達された。

(争いのない事実、乙一、八)

三  主たる争点

1  本件腕章着用闘争は労働組合の正当な行為といえるか

2  始末書等の不提出行為の懲戒事由該当性

3  第一次及び第二次懲戒処分の不当労働行為該当性

(ただし、第一次懲戒処分のうち、本件訴訟で争われていない分会役員六名に対する譴責処分の点を除く。)

四  原告の主張

1  本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為といえるかについて

(一) 本件腕章着用闘争は原告の就業規則四〇条六号及び四二条二号に違反し、同六一条一号の懲戒事由に該当するものであり、かつ、就業時間中の組合活動として職務専念義務に違反するものであるから、その具体的な態様の如何を問わず、労働組合の正当な行為となるものではない。

そもそも労働組合法によって許容される争議行為は、ストライキなど、労務提供義務の完全な、又は一部の停止に限られると考えるべきであり、労務提供を停止せずにできる本件腕章着用闘争は争議行為とは別個の組合活動であるというべきである。

そして、本件腕章着用闘争という組合活動の場合は、労働者が外形的には本来の業務を行っているため、使用者が賃金カットで対抗できず、これに対する懲戒処分が許されないとすれば労使が対等な武器を持つべきであるとする理念に反して不当である。

また、分会員らには、労働契約上当然に認められる職務専念義務が存在するところ、腕章を着用したまま業務に従事するという組合活動は明らかにこれに違反するものであるから、その具体的態様や業務阻害性を検討するまでもなく当然に違法であって、労働組合の正当な行為となる余地のないことは判例理論上明らかである(最高裁昭和五七年四月一三日第二小法廷判決参照)。

(二) 仮に、就業時間中の組合活動の正当性を判断するにあたって、具体的な諸事情を考慮して検討すべきであるとしても、分会員らの従事する業務の以下の性質及び本件腕章着用闘争の態様に鑑みれば、本件腕章着用闘争は労働組合の正当な行為とはなり得ない。

(1) 原告における技能教習業務は、五〇分間の教習時間中、教習生が運転する自動車の助手席に指導員が座り、一対一の指示、アドバイスを行うというものであり、指導態度が教習生に対して与える影響は極めて大きいから、腕章を着用して教習業務を行うことは、全神経を教習に集中すべき指導員としての立場に反するとともに、業務遂行を著しく阻害する行為である。

(2) 原告においては、職員の規律を正すとともに、適正な教習を実施していることを教習生に印象づけるため、従業員に制服を支給し、その着用を義務付けているが、本件腕章着用闘争は、右制服着用によって教習生に与える印象を破壊し、業務遂行を困難とするものであり、現に多数の教習生が本件腕章着用闘争について不快感を表明している。

(3) 本件腕章着用闘争において、分会員らが着用した腕章は「全国一般福岡支部西福岡自動車学校分会」と記載されたものであって、目立たないものということはできない。

(4) 本件腕章着用闘争において、分会員らは、原告の口頭や文書等による再三の警告にもかかわらず、執拗にこれを継続しており、その就業規則違反の程度は極めて高い。

2  始末書等の不提出行為の懲戒事由該当性

本件において、分会員らは原告からの度重なる警告にもかかわらず始末書等を提出せず、その態度は強硬であって、右所為は、腕章を着用して就業することによって職務に専念すべきであるという企業秩序を侵害する行為とは別に、上長の業務命令に従うべきであるという企業秩序を新たに侵害しており、右乱された企業秩序を回復するために、原告が、本件腕章着用闘争に対する懲戒処分とは別個の懲戒処分を実施し得ることは明らかである。

しかも、原告が分会員に要求した始末書等の内容は「いかなる処分を受けても異議の申立てはしません。」といったような文言を必要としている訳ではなく、企業秩序維持に必要最小限度のものであって、労働者の内心の自由を侵害するようなものでもないから、この面からも正当な業務命令である。

したがって、右始末書等の不提出行為は、原告の就業規則六一条七号の懲戒事由に該当する。

3  第一次及び第二次懲戒処分の不当労働行為該当性について

第一次懲戒処分は平成二年五月一九日から同年九月一〇日までの間の分会員らの腕章着用行為を、また、第二次懲戒処分は同月一一日から平成三年四月四日までの間の分会員らの腕章着用行為及び第一次懲戒処分に基づく始末書等の不提出行為をその理由としているところ、右各行為は、いずれも前記1及び2において主張したとおり懲戒事由に該当するから、第一次及び第二次懲戒処分が不当労働行為に該当しないことは明らかである。

五  被告の主張

1  本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為といえるかについて

(一) 職務専念義務の内容について

労働者の就業時間中の組合活動が原則的に禁止されるのは、労働者が就業時間中は労働契約に基づき職務専念義務を負うためであるが、右職務専念義務は、労働者に対し、精神的肉体的活動の全てを職務遂行に集中させることを要請するものではなく、労働契約に基づく職務を誠実に履行するために必要な限りにおいて、その遂行に精神的肉体的活動を集中させることを要請するものと解すべきであるから、就業時間中に行われる組合活動行為であっても、右職務専念義務と両立し、業務遂行や職場規律との関係で支障を生ぜしめない行為は労働組合の正当な行為として許容される。

本件腕章着用闘争は、腕章を着用することによってその有形的行為は完了し、肉体的労働力の提供に支障を来すことはあり得ないし、また、組合活動意識は職務遂行と両立し得ないものではないから、労働組合の正当な行為と認められる。

(二) 業務阻害性について

本件腕章着用闘争を行った分会員は、教習生と対面して屋内で行う法令等の講義を担当しておらず、技能教習にのみ従事しているところ、右技能教習においては、指導員は教習生の運転する車両の左側の助手席に座っており、腕章は左腕に着用されていたから、教習生の目に止まることは少なく、仮に業務に対する阻害性が存在したとしても、それは極く僅少である。

また、本件腕章着用闘争に用いられた腕章は、その形状や記載内容が社会通念を逸脱するものではない。

教習生の中には、本件腕章着用闘争に対する不快感を表明する者もいたが、右不快感は分会のみに対するものではなく、労使双方に対して正常な労使関係の確立に向けての努力を促すものとみるべきである。

2  始末書等の不提出行為の懲戒事由該当性について

そもそも、懲戒処分は、労働者の行為に対して一定の不利益を課すことによってそれを将来に向けて戒めるものであり、かつ、それに尽きるのであって、労働者が内心において反省・悔悛することまでも強制し得るものではないから、単にそれらが認められないこと、又はそれを積極的に表示しないこと、すなわち始末書等の不提出行為をとらえて、再び懲戒処分を課すことはできない。

始末書等の提出を命ずる命令は、懲戒処分実施のために発せられる命令であって、労務提供の場において発せられる命令ではなく、始末書等の提出の強制は、個人の意思の自由の尊重という法理念に反することを考慮すれば、懲戒処分発動の要件となるべき業務上の指示命令にあたらないというべきであって、それにもかかわらず始末書等の不提出を理由として更に懲戒処分を行うことは、既になされた懲戒処分を実質的に累加するに等しく、合理性を欠くものである。

3  第一次及び第二次懲戒処分の不当労働行為該当性について

(一) 不当労働行為の成否の判断方法

腕章着用のような就業時間中の組合活動を理由とする懲戒処分が不当労働行為に該当するか否かの判断においては、労務提供義務・職務専念義務といった義務の違反の程度を評価するのではなく、公正な労使関係の確立、労使対等性の実現という目的から、腕章着用を行った経緯や背景にある使用者側の対応をも考慮し、総合的な観点に立って懲戒処分の正当性を検討する必要がある。

本件では、原告の業務内容、分会員らの職務内容、腕章の形状・文言などから本件腕章着用闘争の有する業務阻害の程度を具体的に判断し、これに、本件腕章着用闘争に至った経緯、原告の対応、同種の戦術に対する原告の従前の対応、組合に対する嫌悪感の有無及び第一次懲戒処分後に重ねて第二次懲戒処分がなされたことなどの具体的事情を加味し、第一次及び第二次懲戒処分の正当性を判断すべきである。

(二) 原告の行った第一次及び第二次の各懲戒処分について原告の主張する懲戒事由は、前記1及び2に主張したとおり理由がなく、しかもそれらがなされた経緯については、被告が別紙命令書理由第2において認定したとおりの事実が存在しているから、第一次及び第二次の各懲戒処分について不当労働行為が成立するとする被告の別紙命令書理由第3における判断は正当であり、本件命令に違法はない。

六  補助参加人の主張

1  本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為といえるかについて

本件腕章着用闘争は、以下のとおり労働組合の正当な行為であり、これを理由とした第一次及び第二次懲戒処分は労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当する。

(一) 本件腕章着用闘争等の正当性の判断基準

原告は、本件腕章着用闘争が職務専念義務に違反すると主張するが、職務専念義務とは、労働者が労働契約に基づきその職務を誠実に履行しなければならないという義務であり、具体的に業務を阻害しない行為は、たとえ組合活動といえども右義務と両立し得ないものではない。

そして、職務専念義務に違反する行為か否かは、使用者の業務や労働者の職務の性質・内容、当該行動の態様など諸般の事情を勘案して判断すべきである。

(二) 本件腕章着用闘争の正当化事由

(1) 本件腕章着用闘争開始の目的の正当性

補助参加人及び支部は、平成二年四月二日、原告に対し平成二年度春闘に関する要求書を提出し、同月一二日に開催された第一回団体交渉において要求事項の説明を行ったが、原告は同月一八日に開催された第三回団体交渉においても有額回答をしないなど春闘回答を不当に遅延させた。

そこで、分会は、右賃上げ交渉を促進させ、同時に組合員の連帯意識の強化を図るべく、赤旗の掲揚及び本件腕章着用闘争を行うことを決定し、実施したものであって、その行為には正当な目的が存在する。

(2) 本件腕章着用闘争における分会の配慮

補助参加人は、原告との平成二年度春闘交渉にあたり、「第一回の回答指定日にゼロ回答をした場合は直ちに赤旗掲揚・腕章着用の取組みをする」旨の補助参加人の平成二年度春闘基本方針に固執せず、話し合いによる解決を重視した柔軟な姿勢で臨んでおり、また、検定員が検定業務に従事する間及び事務職員が受付業務にあたる間は腕章を着用しないこととし、赤旗も、業務に支障のない場所に掲揚する等、業務に対し悪影響が及ばないように配慮した。

また、赤旗の掲揚も僅か二本であり、実際の掲揚時間も短く、同年九月一一日には、分会は局面の転換を図るべく自発的にこれを中止している。

さらに、補助参加人及び支部は、問題解決に向けた妥協案を提示し、問題解決に向けて交渉の前進があればいつでも本件腕章着用闘争を中止する準備がある旨、原告に対し再三申し入れていた。

2  第一次及び第二次懲戒処分の不当労働行為該当性の主張

原告は、以下に分説するように、分会に対して敵意を抱き、社友会会員を優遇する反面、分会員に対し不当な不利益処分を行い、補助参加人との和解協定を反故にするなどの行為に出ている。

これらの事情に鑑みれば、第一次及び第二次懲戒処分は、いずれも、労働組合の組合員であることの故をもって不利益な取扱いをしようとの原告の意思(不当労働行為意思)に基づいてなされた不利益な取扱いであり、労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当することは明らかである。

(一) 原告が分会に対して敵意を抱いていることについて

(1) 管理体制の強化等

原告は、昭和六二年に松尾常務が原告の労務関係の役員に就いたのを契機に労務管理体制を強化するなど分会を敵視し始め、昭和六三年には管理職を増やして、従業員を管理する体制を強化して分会員を監視するとともに、就業規則を変更し、変形労働時間制の導入など諸条件を大きく労働者側に不利に変更することを可能とする改悪を実施し、また、平成元年に、元警察署長の牧園校長が就任すると、その姿勢は一段と硬直化し、平成二年には本件労働協約を一方的に破棄するなどした。

(2) 社友会の結成

原告は、昭和六三年、原告の梃入れで、課長をトップとして、非組合員により第二組合的存在の社友会を結成し、従業員の過半数を組織し、同年、三六協定の締結者を従来の分会長から社友会会長の高橋謙二(以下「高橋会長」という。)に変更した。

(3) 分会に対する中傷行為

原告は、社友会のニュースに、社友会からの疑問に対する回答という形式をとって、補助参加人ないし分会に対する敵意を示した文書を配布していたが、平成二年秋ころからは、分会員差別を公然と表明し、補助参加人及び分会に対して非難・中傷を行い、露骨に敵意を示すようになった。

(4) 不誠実な団体交渉

原告は、補助参加人との団体交渉について、昼食休憩時間に四五分程度応じるのみであり、原告の代表者である三戸社長は団体交渉の席にほとんど出席せず、また、第一次回答から一歩も譲らない頑なな交渉姿勢を取り(そのため、平成二年度春闘については、結局年を越し、翌平成三年四月四日、補助参加人が譲歩して受け入れるまで妥結することができなかった。)、検定業務停止処分や受審拒否処分、激励金差別についても誠実な交渉に応じず、およそ不誠実な交渉態度を取り続けた。

(5) 本件和解後の嫌がらせ行為

原告は、本件和解後も、高速教習課長河野正行(以下「河野課長」という。)などの管理職を通じて「地労委に商調協(福岡商工会議所開催の第九七回商業活動調整協議会、以下「商協調」という。)の委員がいたから、早く許可を受けるため和解しただけだ。」などと放言し、本件和解について非を認めて譲歩したのではないとの姿勢及び分会に対する敵対姿勢を対外的、特に第二組合的存在の社友会に対して誇示するとともに、分会員らに対する様々な嫌がらせを繰り返した。

(二) 社友会会員の優遇

(1) 原告は、平成二年、社友会会員だけを対象とした慰労パーティー、大型船(クルーザー)への招待などの行事を実施して社友会会員を優遇し、また、社友会の発行する社友会ニュースの発行費用を援助している。

(2) 原告が同年八月一一日に実施した非組合員(ただし、分会員の船越を含む。)に対する一人八万円の「激励金」の支給は、原告と補助参加人との労使紛争を理由として、同年度の夏季一時金全体を前年度よりも減額し、その差額を原資とし、繁忙期の協力に応えたとの名目で非組合員を中心に支給したものであって、実質的には分会員から削り取った賃金を非組合員に分配したものであり、明らかな分会差別である。

(3) 原告は、社友会の関係者に対しては分会員と差別して、費用を持って海外旅行をさせるなどの種々の優遇措置を講じている。

(三) 分会員に対する不当な不利益処分

(1) 検定業務停止処分

原告は、平成二年六月一二日付けで、浦分会員及び近藤の両名に対し検定業務停止処分を行ったが、右処分は両名が分会員であることによる不当な不利益処分である。

(2) 受審拒否処分

また、原告は、同月一三日、佐々木及び森田両名に対し受審拒否処分を行ったが、右処分は両名が分会員であることによる不当な不利益処分である。

(3) 賃金差別

原告は、第一次懲戒処分以後は右懲戒処分を理由として公然と分会員を差別した考課査定を行い、第二次懲戒処分以後も同様に賃金及び一時金の差別支給を続け、分会員らに経済的損失を与え続けている。

(四) 和解協定の反故

補助参加人と原告とが平成三年五月二日に締結した本件和解の協定書には、その冒頭において「労使双方は、今後の経営を取り巻く環境が厳しさを増すことに鑑み、本件の発生により生起した一切のいきがかりを氷解し、将来の正常な労使関係の確立と社業の発展を図る」と謳い、その目的のために「下記のとおり協定する。」として、検定業務停止処分の撤回や受審拒否処分の撤回などを個別的に合意条項として定めているところ、本件腕章着用闘争は右検定業務停止処分や受審拒否処分の問題解決の手段として行われたものであるから、本件腕章着用闘争は当然本件和解の対象とされているものである。

また、本件和解の成立に向けて、補助参加人は同年四月四日、前年から持ち越した賃金交渉につき譲歩して原告と妥結して本件腕章着用闘争を中止しており、また、原告も、それまで執拗に要求していた第一次懲戒処分に基づく始末書等の提出要求を控えるに至っているなど、本件和解は原告及び補助参加人双方の互譲により成立したものであって、その当時、原告が本件腕章着用闘争を不問に付すことを共通の認識としていたことは明らかである。

そして、本件和解が成立した以上、労使双方は一致協力して社業の発展のために努力すべきであり、労使間の過去の紛争を蒸し返すことは、本件和解の精神に反するものというべきである。

しかるに、原告は、本件腕章着用闘争を本件和解の対象外であるとして、また、かかる和解の精神を無視し、労使間の信頼関係を破壊して、第二次懲戒処分を強行した。

七  第一次及び第二次懲戒処分の不当労働行為該当性についての原告の反論

1  原告が分会に対して敵意を抱いていないことについて

(一) 管理体制の強化等について

原告では、平成三年から一八歳人口が逓減することに対応すべく、種々の経営体制の見直しを行い、昭和五九年ころには経営コンサルタント会社の提言を容れて課機能の拡充を図る一方、平成三年までは、一八歳人口が増加傾向にあり、原告への入校生数も増加していたため、これに伴って指導員数を増加させたのであり、また、昭和六三年四月一日施行された新しい就業規則についても、分会は、異議なく同意しているから、原告が分会員を監視したり、労働条件を不利にするために就業規則を改悪したりした旨の補助参加人の主張は全て言い掛かりにすぎない。

(二) 分会に対する中傷行為について

補助参加人が主張する社友会ニュースにおける原告の分会に対する記述は、補助参加人、支部及び分会が行った原告に対する誹謗中傷を受けて書かれたものであり、原告が一方的に補助参加人、支部及び分会を批判する目的で書いたものではない。

すなわち、補助参加人、支部及び分会は、平成二年七月六日から八日にかけて、末尾に三戸社長の自宅の氏名及び自宅の住所・電話番号を記載し、原告の労務状況について悪意に満ちた虚偽の事実を記載したビラを配布した。

また、平成二年度の春闘において、補助参加人、支部及び分会は、赤旗の掲揚及び本件腕章着用闘争開始予定日を通知しておきながら、これより前に闘争を開始したり、同年六月二七日の団体交渉の席上で、他の自動車学校の賃上げ状況について事実と全く異なる情報を流したり、同年七月七日には原告の敷地内で無断集会を開催したりした。

以上の経過からすれば、補助参加人、支部及び分会は、原告に対して恣意的な対立状況を形成しているのであり、かかる事実を前提とすれば、社友会ニュースにおける原告の分会に対する記述をもって、原告の分会に対する敵意を認定するのは早計である。

(三) 不誠実な団体交渉について

補助参加人は、七号事件において、一旦は誠実団体交渉を求める救済命令の申立てをしておきながら、平成三年三月二六日にこれを取り下げているが、これは原告の団体交渉態度が不誠実ではないことを補助参加人が認めたものである。

また、補助参加人からの夜間団体交渉の要求は、平成二年八月二七日及び同年九月一三日の二回しかなされておらず、この要求に応じて同年八月二七日午後八時一〇分から九時一〇分まで開催された団体交渉においては時間が余った事実もあり、いつも時間切れで終了していたわけではない。

(四) 本件和解後の嫌がらせについて

原告は、補助参加人が主張するような分会に対する嫌がらせをしたことはない。

2  社友会会員の優遇との主張について

(一) 社友会の組織と活動

原告は、平成元年二月に高橋会長を従業員代表として三六協定を締結したが、高橋会長は全従業員の投票によって決定された全従業員の代表者としての資格を有していたのであって、原告と社友会との間で三六協定を締結したものではなく、また、補助参加人の主張する慰労パーティーやクルージング等の行事は、いずれも原告ではなく社友会が主催し実行したものであって、三戸社長らはあくまでも招待客としてパーティーなどに出席したにすぎない。

(二) 激励金支給の正当性

原告は、平成二年二月ないし四月の繁忙期に早朝・休日教習を実施することとし、同年一月に高橋会長及び石橋分会長の両名に対して協力方を要請したところ、高橋会長は、激励金支給等の条件付きで協力する旨の意向を示し、石橋分会長はこれを拒否した。

なお、原告の繁忙期における早朝・休日教習業務に従事した従業員に対しては、通常の残業手当である二五パーセントの割増賃金(給与規定三四条)のほかに、それに上乗せした金額を支給するのが従前からの慣例であり、例えば昭和六三年及び平成元年の繁忙期においては、二五パーセントの割増賃金及び上乗せ分として、一教程(五〇分)毎に二〇〇〇円を支給しており、組合員である従業員で早朝・休日教習に従事した者もこの手当の支給を受けていたが、この二〇〇〇円は各人に一律のものであり、また、このうちの半分程度がいわゆる上乗せ分に相当する金額であった。

平成二年の繁忙期における早朝・休日教習業務に従事した従業員に対しては、支給方法を変更し、まず、二五パーセントの割増賃金については、これを各人ごとに計算し、定例給与支給日(給与規定七条、六条)に支給し、割増賃金を超過する上乗せ分については、これを一律八万円として、同年八月一一日に支給しているが、このような支給方法については、既に同年一月に高橋会長との間で了解済みである。

原告が、船越を除く分会員に対して激励金を支給しないのは、早朝・休日教習業務に従事しなかったためであって、当然のことである。

3  分会員に対する不当な不利益処分について

(一) 検定業務停止処分の正当性

原告は、以下の理由を考慮して検定業務停止処分をしたものであって、その処分には十分な合理的理由があるから、右処分が浦分会員及び近藤の両名が分会員であることを理由にした不当な不利益処分であるとの補助参加人の主張は理由がない。

(1) 補助参加人及び支部は、平成二年六月七日、「法律に基づくあらゆる争議行為を行う」旨の抗議文を原告に持参し、その後原告が団体交渉において、「あらゆる争議行為」とはいかなる争議行為のことを指すのか問い質したにもかかわらず、一切その内容を明かさなかったことから、原告は、補助参加人がストライキを行うものと推測した。

(2) 補助参加人は、昭和五一年度、同五五年度、同五六年度、同六二年度の春闘の際にストライキを実施しているが、いずれも実施の直前一、二時間になって始めて争議通告を行ういわゆる抜き打ちストであったため、原告は、補助参加人がストライキを行い、検定員である浦分会員ないし近藤がこれに参加した場合、直ちには検定員の補充が利かず、検定業務に甚大な影響を与えることから、かかる混乱を避けるべく、検定員である浦分会員及び近藤に対する検定業務への任命を一時停止したのであり、右処分には十分な正当性がある。

(二) 受審拒否処分の正当性

原告は、以下の理由を考慮して受審拒否処分をしたものであって、その処分には十分な合理的理由があるから、右処分が佐々木及び森田の両名が分会員であることを理由にした不当な不利益処分であるとの補助参加人の主張は理由がない。

すなわち、原告は、検定員資格審査に関し、福岡県内の自動車学校間における受審者のバランスを取るため、推薦総枠を三ないし五名とし、推薦総枠を超えて受審希望者が出た場合には、勤務成績(考課結果)、コンピューター予約率、職位及び担当業務の四つの総合判断によってその優先順位を決定していた。

そして、平成二年八月に実施予定の検定員資格審査に際しては、受審希望者が推薦総枠を超えた七名となったため、勤務評定E、コンピューター予約率八五パーセント、職位が係員(最下位)の森田及び勤務評定D、コンピューター予約率九〇パーセント、職位が係員であった佐々木を推薦しないこととしたのである。

また、佐々木は、同年二月実施の検定員資格審査において四課目中三課目について合格しており、次回の検定員資格審査においては一課目のみ受審し合格すればよく、また、森田も四課目中一課目について合格しており、三課目のみ受審し合格すればよいという状況にあったが、最初から受審した者の平均合格率も、先に三課目合格し残り一課目のみを受審した者の合格率も同じく三割程度であるとの従来の受審結果に鑑みれば、佐々木及び森田が受審拒否処分によって著しい不利益を被ったものとはいえない。

(三) 賃金等の差別との主張について

原告は、分会員に対する賃金、一時金考課における不当差別を行ったことはない。

4  和解協定の反故との主張について

補助参加人は、本件和解に関する協定書の前文に「本件の発生により生起した一切のいきがかりを氷解し」との記載があることを根拠に、本件和解以前に発生している事由に基づき懲戒処分を実施することは許されない旨主張するが、本件和解の対象は〈1〉浦分会員・近藤両名の検定業務への復帰、〈2〉佐々木・森田の検定員資格審査受審への推薦、〈3〉浦分会員・近藤両名に対する検定停止期間中の手当の支払い、〈4〉補助参加人のストライキに際しての事前通告制度の導入の可否という点であって、結局平成三年五月二日の和解協定においては、右〈1〉、〈2〉及び〈4〉について合意されたにすぎないのであり、本件腕章着用闘争の是非については対象とされていない。

また、本件和解において原告と補助参加人とが、過去の紛争を残さず、将来に向けて労使協調する旨合意したことと、和解成立前の行為に対する懲戒処分の実施とは別個の問題であるから、第二次懲戒処分が和解の趣旨に反し、労使間の信頼関係を破壊する信義則違反の行為である旨の補助参加人の主張には理由がない。

第三争点に対する判断

一  本件の争点は、ひっきょう、第一次及び第二次懲戒処分の不当労働行為該当性(争点3)に尽きるものである。

そこで、以下、まず、その判断の前提としての争点1及び2についての判断を示し、次に争点3の判断に資する事実の認定をしたのち、右争点につき判断することにする。

二  本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為であるといえるかについて

1  前記事実によれば、本件腕章着用闘争は原告の就業規則四〇条六号及び四二条二号に違反し、同六一条一号の懲戒事由に該当し、分会員らが原告の警告にもかかわらず右行為を続けた点は同六一条七号の懲戒事由に該当するものというべきである。

しかし、懲戒事由に該当する行為であっても、それが労働組合の正当な行為と認められる場合には、これを理由として行われる労働組合員に対する不利益な取り扱いは労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当するというべきであるから、本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為と認められるかについて検討する。

2  一般に、就業時間中の腕章着用は、一方で、労働者の団結を示威し、使用者に対し心理的圧迫を加え、労働者の要求ないし主張を貫徹する目的及び機能を持ち、他方で、組合員相互間において連帯感を触発し、団結をより強固にし、使用者との交渉にあたって士気を鼓舞する目的及び機能を持つものであって、争議行為的側面と組合活動的側面の双方を有するが、業務を阻害しなくともその本来的な目的を達することができるから、直接的には組合員相互の意気高揚を目的としたものと見るべきであり、腕章を着用することが労務提供の停止に等しいものであるなど特別な事情のない限り、本質的には争議行為ではなく、組合活動であると解するのが相当である。

本件においても、弁論の全趣旨によれば、補助参加人は、本件腕章着用闘争について、「組合の団結を固め、原告の早期回答を促すため」の行為であり、「分会の団結を守り、原告の不当な攻撃に対処するため必要最小限度の組合活動であ」るとの認識を有していることが認められるから、その主たる目的は組合員の団結等を維持する点にあったといえる。

3  そこで、さらに、組合活動である本件腕章着用闘争が労働組合の正当な行為であったか否かについて検討すると、一般に、労働者は労働契約に基づき、就業時間中その活動力をもっぱら職務の遂行に集中させるべき職務専念義務を負うものであって、就業時間中に組合活動を行うことはその具体的態様にかかわらず右職務専念義務に反するものであるから、使用者の明示・黙示の承諾や労使慣行が成立しているなど特別の事情がない限り、労働組合の正当な行為にはあたらないものと解するのが相当である。

職務専念義務の内容に関する被告及び補助参加人の主張は、独自の解釈に基づくものであって、いずれも採用することができない。

三  始末書等の不提出行為の懲戒事由該当性について

被告は、始末書等の不提出行為をとらえて再び懲戒処分を課すことは、労働者の内心の自由に反して反省・改悛することを強制するものであり、また、既になされた懲戒処分を実質的に累加するものである旨主張する。

確かに、始末書等の提出の命令をもって、対象である労働者の内心の自由に反して反省、改悛を強制することができないと解すべきことは被告の主張するとおりであり、また、一事不再理の法理は私的制裁規範である就業規則の懲戒事項にも該当し、同一の懲戒事由に対して二回以上にわたって懲戒処分を課すことは許されないと解すべきことも被告主張のとおりである。

しかし、労働者は労働契約上企業秩序維持に協力する一般的義務を負うものであるから、始末書等の提出を強制する行為が労働者の人格を無視し、意思決定ないし良心の自由を不当に制限するものでない限り、使用者は非違行為をなした労働者に対し、謝罪の意思を表明する内容を含む始末書等の提出を命じることができ、労働者が正当な理由なくこれに従わない場合には、これを理由として懲戒処分をすることもできると解するのが相当である。

そして、証拠(甲一三九、一四〇)及び弁論の全趣旨によれば、本件において原告が分会員らに対して要求した始末書等の内容は、個人の意思の自由を不当に制限するものではないと認めることができるから、始末書等の不提出行為に対して懲戒処分を行うことも許されると解するのが相当であり、この点に関する被告の主張は採用することができない。

そうすると、前記事実に照らし、第一次懲戒処分により始末書等の提出を命ぜられたにもかかわらず、これを提出しなかった分会員らの行為は、原告の就業規則六一条七号の懲戒事由に該当するものというべきである。

四  補助参加人は、原告が分会に対して敵意を抱いていた事実、社友会会員を優遇していた事実、分会員に対して不当な不利益処分を行った事実及び和解協定を反故にした事実が存在し、これらを総合すれば原告の不当労働行為意思が認められる旨主張するので、これらの事実関係について検討する。

1  原告の分会に対する嫌悪感について

(一) 管理体制の強化について

前記事実、証拠(甲三八、七六、八五、九五、九六、一〇三、一〇五、一〇八、一〇九、丙九、一〇、一九、二三、二九)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

原告は、自動車学校の経営に影響を与える、普通自動車免許取得可能年齢である一八歳の人口の減少化傾向等に対処するため昭和五九年八月ころ経営改革に乗り出し、経営コンサルタント会社に依頼した経営診断に関する報告書の提示を受けて、昭和六〇年一月から技能指導部の職制を従来の二課制から六課制に改め、各課を収支計算の最小単位とする各課損益責任体制を採用するとともに、課長の権限を強化して各課ごとの管理体制を確立する課制度の拡充策を実施した。

また、前記一八歳人口のピークは平成三年であって、同年までは入校生徒数が増加傾向にあることが明らかであったため、原告は、新たな指導員の補充が必要であると考えて指導員数を増加させたが、昭和六三年ころ原告に就職した従業員には分会に加入しない者が多かったため、平成元年には、従業員中の分会員数は過半数を下回るに至った。

原告は、平成二年八月二七日の団体交渉終了後、本件労働協約を更新しない旨通告するとともに、同年九月二六日発行の社友会ニュースにおいて、同年二月、三月の繁忙期における早朝・休日教習に分会が協力しなかったこと及び分会員らが事ある毎に年休の取得が困難である旨の発言をしていることなどを理由として「不誠実な組合との間に協定を締結していても無意味であるので協定の破棄を通告した」旨の意見を表明した。

(二) 社友会の結成について

前記事実及び証拠(甲七四、一〇五、丙二九)によれば、次の各事実を認めることができる。

高橋会長は、原告の技能指導部長井上滋康(以下「井上部長」という。)とともに、平成二年二月、原告における分会員を除いた従業員によって社友会を結成し、自ら会長に就任した。

また、このころ、原告の全従業員により、いわゆる三六協定の締結に関する従業員代表を誰にするかについて無記名投票が行われたが、社友会の結成により社友会会員が原告の従業員の過半数を占めるに至っていたため、高橋会長が従業員代表に選出された。

なお、社友会会則の第二条においては、社友会の会員について、「本会は、西福岡自動車学校の社員の内、労働組合等に加入していない者により組織する。」と規定されている。

(三) 分会に対する原告の対応について

(1) 前記事実及び証拠(丙一二、一四ないし二〇)によれば、原告は、社友会の発行する社友会ニュースにおいて、社友会の質問に対する原告の回答及び原告からのお知らせといった形式で、別紙社友会ニュース抜粋記載のとおり、補助参加人及び分会に対する批判を内容とする意見を表明したことを認めることができる。

(2) 一方、前記事実及び証拠(甲一三、八三、)によれば、補助参加人は、平成二年七月六日及び八日、三戸社長の自宅周辺にビラを配布し、また、同年八月四日及び九月一日には、原告事務所から三戸社長の自宅までデモ行進を行い、ビラを配布しているが、これらのビラの中には、「悪質労務管理」、「会社絶対服従の労務管理体制」、「ものの言えない状態」、「虫ケラ同然に扱(う)」、「徹底的な弾圧」、「労働者を金で買った虫ケラ同然の考え方を露骨に出し」、「職場をさらに無権利状態にしていこうとする狙い」などという激しい表現が存在することを認めることができる。

(3) また、証拠(甲八〇、八一、一〇七、丙一)によれば、同年六月二七日の団体交渉において、補助参加人の交渉代表として参加した浦書記次長は、原告が、「同業他社に比較してトップクラスの回答をしているのでこれ以上の賃上げ回答はできない」旨回答したことに対し、「小郡自動車学校では一万二六〇〇円の回答をしているので再度賃上げを検討してほしい」旨告げたが、実際には、小郡自動車学校では組合員ベースで七二五六円のベースアップに留まっていたことを認めることができる。

(四) 不誠実な団体交渉との主張について

前記事実、証拠(甲三九、八一、一〇六、一二二、丙二九、四一)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

(1) 原告と補助参加人との間では、平成二年度の春闘交渉等のため、平成二年四月一二日から、第二次懲戒処分のなされる直前の同三年六月四日までに、合計二一回の団体交渉が開催されたが、右団体交渉に原告代表として出席したのは三戸社長、松尾常務、牧園校長、井上部長及び梅谷総務部長であり、全二一回の団体交渉のうち、三戸社長は五回、松尾常務は一九回、牧園校長は二一回(全回)出席した。

(2) 原告と補助参加人との団体交渉は午後二時から三時までの昼休みの間に約四五分間開催するとの慣行があったが、平成二年度の春闘交渉は意見の食い違いが多く、交渉がなかなか進展しなかったため、昼休みにおける団体交渉は時間切れで終わることが多くなり、補助参加人が同年六月七日、団体交渉を夜間に開催することを要求する文書を原告に交付したのをきっかけとして同年八月二七日及び同年九月一三日には就業時間終了後の午後八時一〇分から九時一〇分まで団体交渉が行われた。

(3) 原告は、同年五月三〇日の第四回の団体交渉において、従業員平均で約一万〇六〇〇円、分会員平均で九五〇七円という賃上げ回答をし、これに対して補助参加人は、右回答では分会員の賃上げ最低額が約六八〇〇円に留まることを指摘し、これを約九〇〇〇円とするよう上積み要求をした。

しかし、原告は、平成三年四月四日補助参加人との間で妥結するに至るまで一切右要求に応じなかった。

なお、平成二年度春闘の分会員平均の賃上げ額九七〇五円を福岡県内における同業他社のものと比較すると、低い水準に留まるものではなく、むしろ極めて高いレベルに属するものである。

(五) 本件和解後の分会に対する言動について

証拠(甲三八、丙四七、四九、五〇)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。

河野課長は、森田に対し、平成三年七月二二日ころ、「城野自動車学校の組合がつぶれたのを知っているか。結果的には組合はつぶれる。」などと、また、同年九月二五日、「工事期間中に入ると仕事が減るので休んでもらわなければならないかも知れない。それを心配している。他の仕事をさせられるかも知れない。」などと告げた。

原告の技能指導部第六課の課長である前田誠は、分会員の笠幸満に対し、同年一〇月ころ、「城野自校のことを知っているのか。城野自校も全国一般の組織ですね。あなた達も城野自校の様にするのか。」などと、また、同年一一月ころ、「地労委で組合側が不利になった場合、あなた達はどうするのか。全国一般は面倒を見てくれるのか。会社側はもう和解はなく徹底的に争うと言っていますよ。」などと告げた。

原告の講習担当課長である原口洋二は、分会員の中島直人に対し、同年一〇月一九日、「全国一般から給料をもらっているのか。会社からもらっているのなら会社の言うことを聞け。始末書を書かなければ今後こういう警告書がどんどん出るぞ。」などと告げた。

2  社友会会員の優遇について

(一) 慰労パーティ等

証拠(甲一〇五)によれば、次の各事実を認めることができる。

(1) 平成二年四月、高橋会長を中心として社友会が発足し、社友会会員による会費制の発足記念パーティーが開催された際、三戸社長、松尾常務及び牧園校長の三名は来賓としてこれに出席し、また、同年九月に、社友会の主催で退職する社友会会員を対象とした会費制による送別会が開催された際にも来賓としてこれに出席した。

また、社友会は、高橋会長の企画・発案により、同年七月及び八月の二回、三戸社長の母親である原告の会長所有にかかるヨットを借り受け、社友会会員を対象としてヨットクルージングパーティーを開催したが、その際、三戸社長と松尾常務がヨットの操縦のために右パーティに参加した。

(2) 社友会が社友会ニュースを発行するにあたっては、その発行責任者である高橋会長が、牧園校長の許可を受けて原告の所有、管理するワードプロセッサーや用紙を使用してこれを作成し、社友会会員に配布している。

(二) 激励金について

前記事実、証拠(甲三二、九八、九九、一〇五ないし一〇七、一〇九、乙一〇の2、丙九、一一の1、一五、)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができる。

原告は、従来から、繁忙期に従業員の了解を得て早朝・休日教習業務を行っており、その際は、事前の労使協定で合意のうえ、業務に従事した従業員に対する手当として一教程(五〇分)あたり二〇〇〇円を支給していた。

平成二年一月、原告は同年の繁忙期にも早朝・休日教習を行うこととし、社友会の高橋会長及び分会の石橋分会長に対し意向を打診したところ、高橋会長はこれを基本的に了承したが、石橋分会長はこれを拒否したことから、原告は、分会員以外の技能指導員を中心として同年の早朝・休日教習を行うこととし、同年二月五日から同年四月七日までの間の早朝、一教程の早朝教習を、また、同期間内で三日の休日教習を実施した。

その後、原告は、右早朝・休日教習業務に従事した従業員(分会員である船越を含む。)に対して、給与規定に基づく基準内賃金の二五パーセントの割増賃金を定例給与支給日に支給するとともに、係長以下の従業員に対する割増賃金を超過する上乗せ分一律八万円を激励金として、同年八月一一日に支給した。

右激励金の支給については、従来の慣例と異なった計算方法によるものであったが、原告はこれについて分会はもとより、高橋会長に対しても事前の説明をしなかった。

なお、同年度の夏季一時金は労使間の団体交渉の結果、平成元年度よりも五パーセント以上少ない分会員平均四三万八七九一円で妥結している。

3  組合員に対する不利益処分について

(一) 検定業務停止処分について

前記事実、証拠(甲三二、四一、四四ないし四九、五一ないし五四、五八ないし六一、六三ないし六八、七〇、七一、七三、一〇五ないし一〇七、丙一、三、四の1、2、五、七の1、2、一一の2、一六、二八、二九)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実を認めることができる。

(1) 平成二年当時、原告には一五名の検定員が在職しており、これらの検定員は資格手当として月額一万二〇〇〇円の支給を受けていた。

(2) 原告は、月曜日及び木曜日に本免許検定試験を、火曜日、水曜日及び金曜日に仮免許検定試験をそれぞれ午前一〇時から実施している。

(3) 原告は、本免許検定試験や仮免許検定試験の各受験者について、検定受験日の前日午後八時までに願書を提出させたうえ、〈1〉受験者を入校に際して紹介した者でないこと、〈2〉受験者の教習の大部分を担当した者でないこと、〈3〉受験者の補習を担当した者でないこと、〈4〉受験者に対する見極めを行ったものでないこと、の四条件を満たす検定員を選出し、その決定は、検定実施日の午前九時四五分に各検定員に告知する。

検定業務に就くように指示された検定員は、検定開始時刻である午前一〇時までに、検定に用いる自動車を整備し、かつ、最初の受験者に当日の検定試験コースを把握させるため、これを乗せて検定試験コースを一巡する試走を行わなければならない。

(4) 分会は、昭和五一年度、同五五年度、同五六年度、同六二年度にそれぞれストライキを行っているが、決行直前に争議通告をすることが多かったため、これを知らずに来校した教習生が教程を受けられないなど、原告の業務に多大の影響を及ぼした。

昭和六二年七月四日には、前日からの争議通告にもかかわらず分会員を検定員として組み込んでいたため、早朝の一五分間のストライキの影響を受け、検定業務の開始時間が遅れた。

(5) 補助参加人及び支部は、平成二年六月七日、同日付け抗議文において、原告が赤旗の掲揚及び腕章着用闘争に対して懲戒処分の対象となる旨告げたことに対して抗議するとともに、「今後貴社の不当労働行為・労働組合敵視が続けられる場合は、法律に基づくあらゆる争議行為を行う」旨通告し、原告がこれに関して、あらゆる争議行為とはどのような争議行為を言うのかと質したところ、「あらゆる争議行為はあらゆる争議行為である。」旨回答した。

(6) 浦分会員及び近藤に対する検定業務停止処分の通告書には、その理由として、補助参加人が「今後法律に基づくあらゆる争議行為を行う」ことを通告してきた旨記載されており、かつ、平成二年六月一二日及び同月一三日に浦分会員及び近藤にこれを手渡す際、原告は、抜き打ちのストライキなどをされた場合の検定業務への影響を排除するための処分であることに言及した。

(7) 補助参加人及び支部は、平成二年六月一三日、検定業務停止処分及び受審拒否処分の撤回を連名の文書をもって要請し、また、補助参加人は同月一九日、被告にあっせんを申請した。

被告は、これを受けて同月二一日に事情聴取を行い、また、同月二八日には労使間における話し合いが持たれたが、原告はその際、被告に対し、ストライキの二四時間前の事前通告制度の受入れを条件として検定業務停止処分の撤回に応ずる意向を示した。

しかし、受審拒否処分についての労使の意見の対立が大きく、補助参加人が右原告の提案に応じなかったため、被告はあっせん案を提示することなく口頭勧告を行い、右あっせん手続を打ち切った。

(8) 原告は、平成二年九月五日に発行された社友会ニュースにおいて、ストライキの四八時間前の事前予告制度などが協定されない限り、検定業務停止処分を継続する旨の意見を発表している。

(9) 原告は、過去のストライキにおいて検定業務停止処分のような処分を行ったことはなく、また、検定業務停止処分を通告する直前である同年六月一二日の団体交渉などで、補助参加人に対し、ストライキの事前通告制度や検定員をストライキの対象外としてほしい旨の申し入れをするなど、より緩やかな対応策を申し入れることはなかった。

(10) 補助参加人は、平成二年度の春闘では結局ストライキを行わず、争議行為による検定業務への現実の影響はなかったが、浦分会員及び近藤に対する検定員の資格手当の支給は、検定業務停止処分が終了する平成三年四月までなされなかった。

(二) 受審拒否処分について

前記事実及び証拠(甲八二、八八の1、2、八九、九〇の1ないし6、一〇〇、一〇七、一〇八、一二二、丙一、六、一五、二五、二八ないし三〇)によれば、次の各事実を認めることができる。

(1) 原告は、検定員資格審査に際し、従来から三名ないし五名の受審者を推薦していたが、受審拒否処分以前の受審希望者は五名以内に留まっていたため、受審希望者で推薦を受けなかった者はいなかった。

一方、平成二年八月に実施された検定員資格審査の受審を希望するものは、森田及び佐々木を含めて総勢で七名であった。

(2) 原告が平成二年五月に実施した勤務評定の成績並びに同年八月時点におけるコンピューター予約率及び職位についてみると、森田及び佐々木は、右受審希望者七名中六、七番目に位置していた。

(3) 牧園校長は、平成二年六月一三日、受審拒否処分を佐々木及び森田に通告するため両名を校長室に呼び出し、直接、検定員資格審査を受けさせない理由を告げ、これに対し佐々木が正式な文書を要求したところ、その内容を記載したメモ(丙六)を交付したが、右メモの内容は次のとおりであった。

「検定員審査を受けさせない理由

1  検定員は指導員を教養する立場にある。

単に技能だけがすぐれているだけではいけない。

就業規則を平然と破り反省がない指導員は、当校として検定員審査は受けさせない。

2  6/7に「あらゆる争議行為を行う」ことを上部組合は通告してきた。審査を受けることで如何なる混乱が生じるかしれない。ひいては学校の信用失墜になるおそれが多分にある。」

(4) その直後の同年六月一五日の団体交渉において、補助参加人が受審拒否処分の理由を質したところ、原告は、勤務評定及びコンピューター予約率等で人員を絞り込んだなどという具体的な説明は行わず、牧園校長が口頭で告げた前記(3)の内容を繰り返した。

(5) 原告は、同年八月二八日に発行された社友会ニュースの中で、社友会の質問に答える形でこの問題に触れ、「希望者全員が受審できるとは限りません。その希望者の中から、あらゆるデータを加味して検討し、適格者を選出するのです。就業規則に違反した者などは、不適格の対象となることは当然で、今後の審査においてもこの基本的方針は変わりません。」との意見を表明した。

4  本件和解締結の経緯及びその後の原告の言動について

前記事実、証拠(甲一六ないし二九、一二二、一四三、乙一、一〇の2、丙四六)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができる。

平成三年三月二六日、被告における原告と補助参加人との間の七号事件の審理において、全ての証人の審問が終了したことを受けて、被告は、同年四月一一日及び同月一八日に和解勧試を行ったが、労使の意見の対立が深く、そのままでは和解の成立は困難な状況となった。

この間の同年四月四日、補助参加人は前記のとおり平成二年度の春闘要求について原告の回答を受け入れることを通告し、同月五日から腕章着用を取り止め、また、原告も、第一次懲戒処分後平成二年九月二九日、同年一〇月六日、同月二〇日、同年一一月二日、同月一九日、同年一二月二二日、平成三年一月一二日、同年二月九日、同年三月二六日と継続してきた腕章着用闘争、始末書等の不提出行為に対する警告書の交付を中止し、同年四、五月には警告書の交付を控える態度をとった。

被告は、和解が不成立となる様子であったため、七号事件についての最終陳述を同年四月二五日に行うとともに、念のためもう一度和解を勧試することとし、同年五月二日に和解期日を設けて和解勧試をしたところ、原告と補助参加人との間で本件和解が成立した。

原告と補助参加人は、本件和解の成立を受け、爾後の労使関係の正常化を促進するため、平成三年五月一八日午後六時二〇分ころから焼肉ホルモン料理店において懇親会を開催し、原告からは三戸社長、松尾常務、牧園校長が、補助参加人からは浦書記長ほか分会執行部六名がそれぞれ出席して和気あいあいとした和やかな雰囲気の中で将来の労使協調路線について話し合い、原告が右懇親会において始末書等の不提出の問題や腕章着用闘争に対する新たな懲戒処分について言及することはなかった。

ところが、原告は、その後の同年六月八日、賞罰委員会を開催し、分会員らに対し第二次懲戒処分を行うことを決定し、同月一〇日付けでこれを実行した。

五  以上の事実関係を踏まえ、第一次懲戒処分の不当労働行為該当性について判断する(ただし、本件訴訟においては、第一次懲戒処分のうち、分会役員に対する譴責処分の点は争われていないので、その余の分会員に対する戒告処分の点についてのみ判断することとする。)。

1  前記二に判示したとおり、本件腕章着用闘争はそれ自体懲戒事由に該当する性質のものであること、第一次懲戒処分の対象となった本件腕章着用闘争は、被告の度重なる警告にもかかわらず平成二年五月一九日から同年九月一〇日までの四か月近くの長期間にわたって執拗に継続され、被告の企業秩序に与えた影響は大きく、懲戒処分を行うべき必要性が認められること、また、第一次懲戒処分において分会役員を除くその余の分会員になされた戒告処分は、原告の就業規則に定められた懲戒処分としても二番目に軽く、賃金査定に影響を及ぼすものではないことなどを考慮すれば、右懲戒処分とその対象となった行為との間には十分な均衡がとれているものというべきである。

2  そこで、不当労働行為該当性を基礎づけるものと補助参加人が主張する点について検討する。

前記事実によれば、原告が昭和六三年に行った課制度の拡充や新規指導員の採用は合理的であり、これをもって分会員を監視するための管理体制の強化であるということはできないし、原告と補助参加人との間の団体交渉についても、補助参加人がその進展や内容に不満を持っていたことは認められるものの、団体交渉の回数が相当程度に上っていること、松尾常務がほとんど、牧園校長が全ての団体交渉に出席していること、原告の回答した賃上げ額は同業他社に比較して高額であること及び春闘回答自体例年の回答時期に比較して遅れているわけではないこと等の各事情を総合考慮すれば、原告の団体交渉態度が不誠実であったともいえない。

もっとも、原告が一方的に本件労働協約を破棄したのは労使間の軋轢の結果であること、社友会はその規約で会員資格として分会員が除かれており、純粋な親睦団体というよりも第二組合的団体であると認められるところ、その社友会発行の社友会ニュースにおいて表明された原告の補助参加人及び分会に対する攻撃的態度や本件和解後の原告管理職らの分会員らに対する言動を総合考慮すれば、原告が分会に対して嫌悪感を抱いていたとの事実は優にこれを認めることができる。

また、高橋会長は激励金の支給方法を事前に知らなかったこと、船越以外の分会員全員(二八名)が激励金の支給を受けられなかったこと、早朝・休日教習に関して従来支給されていた、給与規程に基づかない上乗せ手当の額は事前の労使交渉で明確化されていたこと、平成二年度の夏季一時金は前年に比べて五パーセント以上(組合員平均)も引き下げられていること及び社友会ニュースにおいて原告が表明した意見内容等を総合すれば、原告は平成二年度の繁忙期における早朝・休日教習業務に分会が協力しなかったことを快しとせず、分会員の大部分がこれに参加しなかったことを奇貨として、分会員と社友会会員とを区別して社友会会員を優遇した手当を支給することとし、それまで労使協定によって一教程一律二〇〇〇円としていた手当について支給方法を改め、係長以下の従業員に対し所定の割増賃金のほかに一律八万円の激励金を支給したものと認定するのが相当である。

そして、右事実に、慰労パーティ等において原告の役員が出席している事実や社友会ニュースの発行も原告の許可と援助の下に行われていた事実を併せ考えれば、原告は分会員と社友会会員とを区別し、社友会会員を優遇していたものというべきである。

他方、前記事実によれば、浦分会員及び近藤に対する検定業務停止処分並びに佐々木及び森田に対する受審拒否処分はいずれも合理性を有するものというべきである。

もっとも、牧園校長が佐々木及び森田に対し受審拒否処分を告げた際に示した処分理由中の「就業規則を平然と破り」との表現が本件腕章着用闘争を指すことは明らかであること、その直後の団体交渉においても原告は勤務評定の結果等の基準によって判断したものであるとの理由を説明していないこと、原告が社友会ニュースで表明した意見の内容などに鑑みれば、原告が受審拒否処分を行った直接の動機は、佐々木及び森田両名が分会員として本件腕章着用闘争に参加していたことにあると認めるのが相当である。

3  以上によれば、第一次懲戒処分を行った平成二年九月二五日当時、原告が分会に対し嫌悪感を抱いていたこと及び分会員に比して社友会会員を優遇していたこと等が認められるが、1の判断と併せ考えれば、これらの事情のみでは、原告が不当労働行為意思を決定的動機として第一次懲戒処分を行ったものと認定することはできないというべきである。

よって、第一次懲戒処分が不当労働行為に該当するとの被告及び補助参加人の主張は失当であり、本件命令中これを認めた部分は違法であって、取消しを免れない。

六  次に、第二次懲戒処分の不当労働行為該当性について判断する。

1  原告は、第二次懲戒処分の理由として、平成二年九月一一日から翌平成三年四月四日までの本件腕章着用闘争及び始末書等の不提出行為を掲げているところ、右各行為は前記二及び三に判示したとおり、それ自体懲戒事由に該当する性質のものである。

しかし、本件腕章着用闘争に対する懲戒処分の必要性について検討するに、既に同様の行為に対する第一次懲戒処分が先行しており、また、本件腕章着用闘争が第一次懲戒処分後も長期間継続されたのは、補助参加人が検定業務停止処分や受審拒否処分などの撤回を要求していた七号事件が被告に係属し、審理されていたことにも一つの原因があり、しかも右事件が解決に向かって進行する中で本件腕章着用闘争が自発的に中止され、その結果これらの労使紛争が解決され、本件和解が成立するに至ったと解される事情に鑑みれば、懲戒処分を行うべき必要性は第一次懲戒処分の場合に比較して格段に低かったものというべきである。

また、始末書等の不提出行為に対する懲戒処分の必要性について検討するに、始末書等の不提出行為が継続されたのは、本件腕章着用闘争継続の原因でもある検定業務停止処分や受審拒否処分などの問題が七号事件として被告に係属し、審理されていたことにも一つの原因があるものと解され、その後和解手続きが進行するに伴って始末書等の不提出行為に対する警告書も交付されなくなり、最終的には本件和解が成立しているのであるから、始末書等の不提出行為が原告の企業秩序に与えた影響は僅少と見られ、これに対し殊更懲戒処分を行う必要性はなかったものといわざるを得ない。

さらに、第二次懲戒処分において選択された譴責処分は賃金査定に影響を及ぼすものであるから、第二次懲戒処分の正当性を認めることは困難である。

2  そこで、不当労働行為該当性を基礎づけるものと補助参加人が主張する点について検討するに、前記事実によれば、原告は第二次懲戒処分を行った平成三年六月一〇日当時においても、分会に対し嫌悪感を抱いており、分会員に比して社友会会員を優遇する態度を有していたものというべきである。また、分会が検定業務停止処分や受審拒否処分に抗議して腕章着用闘争を継続し、これに端を発する第一次懲戒処分に派生して始末書等の不提出行為が争われてきた経緯に鑑みれば、本件和解の前文における「本件の発生により生起した一切のいきがかり」には本件腕章着用闘争及び始末書等の不提出行為も含まれると解するのが相当であり、かつ、原告がそれまで繰り返していた警告書の交付を止めて譲歩する姿勢を示し、本件和解を成立させたうえ、懇親会まで開いて将来の労使協調路線について懇談をしたにもかかわらず、その後突如として第二次懲戒処分を行ったことは本件和解の趣旨に反するものというべきである。

3  以上の事実を総合考慮すれば、第二次懲戒処分は、第一次懲戒処分と異なり、不当労働行為意思を決定的動機としてなされた、労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当するものと認定するのが相当である。

よって、第二次懲戒処分が不当労働行為に該当するとの被告の判断は相当である。

(裁判官 石井宏治 川野雅樹 工藤正)

別紙社友会ニュース抜粋 省略

(別紙)

命令書〈写〉

福岡市中央区大手門3丁目3番3号

申立人 全国一般労働組合福岡地方本部

執行委員長 浦俊治

福岡市中央区笹丘1丁目28番74号

被申立人 株式会社西福岡自動車学校

代表取締役 三戸道雄

上記当業者間の福岡労委平成3年(不)第6号不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、平成5年6月21日公益委員会議において合議のうえ、次のとおり命令する。

主文

1 被申立人は、下記の申立人組合員23名に対する平成2年9月25日付戒告処分を撤回し、同処分がなかったものとして取り扱わなければならない。

浦田弘道

今野健吾

服部穂津雄

船越幸光

大隅隆

浦正美

山津博

成田武澄

吉川和宏

小佐井昇

藤川義礼

井手徹志

稲益潔

津田正清

光益修一

三砂林蔵

梶原一男

柳瀬和豊

近藤好昭

池田嗣男

広田武彦

丸山寛治

小田原忍

2 被申立人は、下記の申立人組合員27名に対する平成3年6月10日付譴責処分を撤回し、同処分がなかったものとして取り扱わなければならない。

石橋義則

藤川義礼

佐々木俊郎

森田秀久

中田富久

近藤好昭

中島直人

笠幸満

浦田弘道

今野健吾

服部穂津雄

船越幸光

大隅隆

浦正美

山津博

成田武澄

吉川和宏

小佐井昇

井手徹志

稲益潔

津田正清

光益修一

三砂林蔵

梶原一男

柳瀬和豊

池田嗣男

広田武彦

3 申立人のその余の申立ては、これを棄却する。

理由

第1申立人の請求する救済内容

申立人の請求する救済内容は次のとおりである。

1 被申立人は、平成2年9月25日付でなした、申立人組合員29名に対する懲戒処分及び平成3年6月10日付でなした、申立人組合員27名に対する懲戒処分を徹回し、同処分がなかったものとして取り扱わなければならない。

2 陳謝文の交付及び掲示。

第2認定した事実

1 当事者

(1) 申立人

申立人全国一般労働組合福岡地方本部(以下「組合」という。)は、昭和37年8月27日、福岡県内の中小零細企業の労働者によって結成された個人加盟方式の労働組合であり、本件申立時の組合員数は約2,000名である。

また、西福岡自動車学校分会(以下「分会」という。)は、被申立人会社の従業員によって昭和49年に結成され、組合の下部組織である福岡支部(以下「支部」という。)に所属している。

なお、本件申立時の分会の組合員数は27名である。

(2) 被申立人

被申立人株式会社西福岡自動車学校(以下「会社」という。)は、肩書地において、公安委員会指定の自動車教習所を経営する会社である。

会社の従業員は、仮免許及び本免許の検定を行う技能検定員(技能指導員の資格も併せ持つ。)の有資格者、運転技能の指導を行う技能指導員の有資格者、学科の指導を行う学科指導員の有資格者及び事務職員など約90名である。また、会社における平成2年の入校生徒(以下「教習生」という。)数は3,891名である。

2 会社における労使関係と本件懲戒処分に至る経緯

(1) 社友会の結成

平成元年2月(以下「平成」を略す。)、会社では、部長や課長などの職制を含む非組合員によって社友会と称する親睦団体が結成された。

(2) 36協定

従前、組合は、会社との間で36協定を締結してきたが、元年には、組合員数が従業員の過半数を割ったことから、新たに同協定を締結するために従業員代表の選挙が行われた結果、社友会の代表者がこれに選出され、以後36協定は、会社と社友会の代表者との間で締結されてきた。

(3) 早朝・休日教習

2年1月17日、会社は、石橋義則分会長及び社友会の代表者であり従業員代表として36協定の締結当事者となった学科指導部の高橋謙二課長に対し、業務の繁忙が想定される2月5日から4月7日までの間「早朝・休日教習」(毎朝1時間の早出時間外労働を行うこと及び上記の期間内に3日間の休日労働を行うことを内容とするもの。)を実施したい旨提案し協力を要請した。これに対し、高橋謙二課長は会社の提案を了承したが、石橋義則分会長は、分会の方針として提案には応じられない旨回答した。このため、「早朝・休日教習」は、会社と高橋謙二課長との間で労働条件について合意がなされたうえで、社友会の会員を中心(分会組合員は1名が参加)に実施された。

(4) 社友会発足記念パーティー

2年4月、福岡市内の料理店において社友会の発足記念パーティーが行われた。同パーティーには、会社側から三戸道雄社長(以下「三戸社長」という。)、松尾一郎常務取締役(以下「松尾常務」という。)及び牧園昭校長(以下「牧園校長」という。「校長」は自動車教習所の管理者である。)の3名が来賓として招かれ、三戸社長がパーティーの席上で祝辞を述べた。

(5) 1990年春闘要求

2年4月2日、組合は、3万円の賃金引き上げ等を内容とする春闘要求書を会社に提出し、同月12日までに回答するよう求めた。

組合は、これに先立って同年3月20日付で「90春闘に関する闘争指令第1号」と題する書面を発し、組合の傘下にある全支部・職場・組合員に対し、回答指定日以降のゼロ回答、低額回答、回答延期に対しては、赤旗の掲揚・腕章の着用・ワッペンの着用などの戦術で臨むよう指示した。

(6) 春闘要求についての団交

ア 2年4月12日、組合の春闘要求に対する第1回団交が開催され、組合側が要求事項の趣旨について説明を行った。

イ 2年5月9日、第2回団交が開催された。会社は、賃上げ問題について、同業他社における賃上げ交渉の進捗状況を説明し、業界トップの回答を出すためには、他社の妥結後に回答した方が有利であるとの見解を示すとともに、会社としては、昨年の妥結額を下回らないよう努力すると述べた。これに対し組合は、会社が有額回答を提示しなかったことに不満の意を表明し、「今日の回答はゼロ回答である。」、「他社の動向は関係ない。」などと抗議するとともに、会社が低額の回答を行った場合は、赤旗の掲揚やデモ行進などの闘争を実施すると述べ、次回団交では有額回答を行うよう求めた。

ウ 第2回団交の後、組合の浦書記次長は、会社の梅谷総務部長に電話で、次回団交を2年5月18日に行いたい旨申し入れた。これに対し同総務部長は、賃上げ額の試算ができていないので、当日団交を行っても具体的な金額は提示できないと述べたところ、浦書記次長もこれを了解したうえで同期日に団交が設定された。

エ 2年5月18日、第3回団交が開催された。賃上げ問題について会社は、「今日の団交では有額回答はできない旨事前に組合に連絡している。同業他社より高い額を出したい。今月末の29日から31日の間に団交を開いてもらえば有額回答をする。」と答えた。これに対し組合の浦書記次長は、「賃上げは組合員平均12,000円以上は欲しい。次回団交で有額回答が提示されない場合は赤旗、腕章をと思っている。」と述べた。また、この日は賃上げ問題のほか労働災害に対する補償問題や教習時間の短縮問題などの春闘要求事項についても協議がなされたが、これらの問題についての具体的進展はなかった。同日の交渉を終えるにあたり組合は、「今夜の組合集会で今日の交渉結果を報告し、今後の具体的行動については明日会社に通告する。」旨会社に告げた。

(7) 赤旗掲揚及び腕章着用闘争

ア 2年5月18日の夜、浦書記次長も出席のうえ分会の集会が開催された。集会では、分会組合員に対しこの日の交渉結果について報告がなされるとともに、以後の闘争方針について論議された。その結果、分会は、組合員の連帯意識の強化や賃上げ交渉の促進などを目的に、翌日より赤旗の掲揚及び腕章の着用闘争(以下「赤旗・腕章闘争」という。)に入ることが確認された。なお、同闘争の実施に当たっては、技能検定員は検定業務に従事する間、また、事務職員のうち受付業務に当たる者は事務所内においては腕章を外すこととし、赤旗は業務に支章のない場所に掲揚するとの方針が併せて確認された。

イ 2年5月19日、分会の役員は、赤旗・腕章闘争に入る旨会社に通告のうえ、上記アの闘争方針に従って、それぞれ交通量の多い通りに面した会社の表門及び裏門付近の会社敷地内に、組合名を白抜きにしたポール付きの赤旗各1本をフェンスや教習生用の自転車・バイク置場の支柱に結束するなどの方法で掲揚するとともに、分会組合員は、分会名を記載した腕章を着用して就労した。

ウ この赤旗・腕章闘争に対し会社は、同日、分会長に対し赤旗の撤去と腕章の取外しについて口頭で警告したが、組合側はこれに応じなかった。このため会社は、書面で再度同様の警告を発し、その中で、赤旗については組合側が自ら撤去しない場合は会社の手で撤去する旨通告のうえ実行した。なお、同赤旗は、組合側の求めに応じて同日の夕刻返却された。

エ 以後労使間では、赤旗の掲揚をめぐって、組合が同闘争を中止する2年9月10日まで上記ウ同様の応酬が繰り返された。また、腕章着用闘争は春闘問題が妥結する翌3年4月4日まで続けられ、この間会社は、分会や分会組合員に対し腕章を取り外すよう繰り返し警告を行った。

(8) 会社の有額回答

2年5月30日、春闘要求に対する第4回団交が開催され、会社は組合員平均9,507円の賃上げ回答を行ったが、組合は最低でも同業他社を上回る金額を提示して欲しいとして回答の上積みを求めた。

(9) 検定業務の停止と技能検定員審査受審への推薦拒否

ア 赤旗・腕章闘争が実施されて以降、会社は、分会長に対し再三に亘り赤旗の撤去と腕章の取外しについて警告を発するとともに、2年5月31日には同様の警告文を会社の掲示板に掲示し、また、6月5日には担当の課長を通じ、勤務時間中に腕章を着用することは組合活動に当たり就業規則に違反するので、腕章を外さない場合は懲戒処分を行う旨の警告書を分会の組合員一人一人に手渡した。これに対し組合は、同月7日会社に抗議文を出し、会社の行為は正当な組合活動への侵害であり労働基本権を侵すものであると抗議するとともに、今後同様の組合敵視が続けられる場合は法律に基づくあらゆる争議行為を行う旨通告した。

イ 会社は、前記6月7日付の組合からの抗議文において、「……今後……法律に基づくあらゆる争議行為を行う。」との通告がなされたことを理由に、2年6月12日から13日にかけて分会組合員である2名の技能検定員に対し、以後当分の間検定業務を停止しその間技能検定員資格手当は支払わないと通告するとともに、同月13日には、公安委員会が実施する、技能検定員の資格を取得するための審査の受審を希望していた分会組合員である2名の技能指導員に対し、同審査を受審するために必要な校長の推薦を行わないと通告した。この通告に当たり牧園校長は、推薦を拒否する理由として、「就業規則を平然と破り反省がない指導員には審査は受けさせない。」、「6月7日に組合が今後法律に基づくあらゆる争議行為を行うと通告してきており、審査を受けさせることで如何なる混乱が生じるかもしれない。ひいては学校の信用失墜を招く恐れがある。」と両名に説明した。

組合は、この会社の措置に抗議するとともに団交の場においてその撤回を求めたが、会社はこれに応じなかった。このため組合は、同月19日当委員会にあっせんの申請を行ったものの、あっせんは不調に終わった。

(10) 組合集会

2年7月7日、当日は土曜日であり会社の教習業務は終業時刻の午後6時に終わったが、支部が主催した集会(以下「7・7集会」という。)が、同6時45分頃から会社の自動車教習所構内で行われた。この集会は、春闘問題の進展を図ることや、一連の会社の労務政策に抗議することなどを目的に開催されたもので、分会の組合員をはじめ会社外の他分会の組合員など、組合傘下の労働組合員約120名が参集したほか、組合の宣伝カー1台と赤旗約10本が会場に持ち込まれた。集会は、分会役員のほか数名の組合関係者が、宣伝カーのマイクを使って挨拶を行うなどして、45分間程で散会したが、会社は、この間集会に対する阻止行動などは一切とらなかった。会社は、この集会の実施により、教習所構内のコース等の点検を行う必要が生じたため、同集会が終了するまで職員1名に残業を命じ点検を行わせた。

なお、会社は、就業規則でその施設を業務以外の目的で使用する場合は許可を要する旨定めており、分会は、従来会社の施設を利用して集会などを行う場合には必ず会社の事前許可を得ていたが、本件のような分会の上部組織が主催する集会は過去に例がなく、この日の集会開催に当たっては、そのような許可の手続きはとられなかった。

(11) 不当労働行為の救済申立て

2年7月9日、組合は、前記(9)、イに掲記の分会組合員に対する検定業務の停止措置及び技能検定員審査受審のための推薦拒否の撤回並びに誠実団交応諾を求め、当委員会に平成2年(不)第7号不当労働行為救済申立てを行った。

なお、誠実団交応諾に関する申立ては、当時会社では昼休みを利用して団交が行われていたところ、組合は交渉時間の不足を理由に終業時刻後等の団交開催を要求し、会社がこれを拒否したことから申し立てられたものであるが、その後会社が組合の要求を容れたため、組合は、同申立てを3年3月26日付で取り下げた。

(12) 激励金

2年8月11日、会社は、夏期一時金を支給したが、これと併せて前記(3)に掲記の「早朝・休日教習」に参加した者(分会組合員1名を含む。)に対し一律8万円の金員を「激励金」と称して支給した。この「激励金」(会社では手当にこのような名称が付されたのはこの時が初めてである。)は、「早朝・休日教習」に対する法定の時間外割増手当とは別途に支払われたものであるが、会社は、組合が36協定の締結当事者であった当時から、繁忙期の休日労働等に対しては事前協定に基づき法定の時間外割増手当とは別に同様の上積み手当を支給していた。

組合は、この「激励金」の支給は組合員に対する差別取扱いであるとして、分会組合員に対し一律8万円を支給するよう求めて、2年11月27日付で平成2年(不)第7号事件に追加して不当労働行為の救済申立てを行った。

なお、この申立てに関し組合は、「激励金」の支給が不当労働行為を構成する理由として、〈1〉「激励金」の支給は何ら事前協定等もなく行われたものであり支給の根拠がない、〈2〉従前の時間外割増手当に対する上積み額より高額である、などの主張を行った。

(13) 社友会の親睦行事等

社友会は、2年7月および8月の2回に亘り会社の会長所有のクルーザーを使用して親睦会を催したが、同クルーザーの操縦は三戸社長と松尾常務が行った。また、同年9月には社友会の会員が退職するに当たり社友会主催の送別会が行われ、この席には三戸社長、松尾常務及び牧園校長の3名が招かれた。

(14) 組合のデモ行進とビラ配布

組合は、春闘問題や赤旗・腕章闘争などに対する会社の対応に抗議して、2年7月から9月にかけて数回に亘り三戸社長の自宅付近までデモ行進を行い、社長の自宅周辺などで次のような会社の労務政策を批判する内容のビラを配布した。

〈1〉 2年7月8日配布のビラ(抜粋)

不当差別・組合潰し・絶対服従

悪質労務管理の西自校経営者

……会社役員等々が入れ替わり、職場の締め付けが今まで以上に厳しくなり、現在でも今年度の春闘(賃上げ)も未解決のまま、会社絶対服従の労務管理体制を強められ、ものの言えない状態が作られています。三戸社長をはじめ、会社役員は「従業員を時間で雇った以上、どんな働かせ方をしようと関係ない。労働強化とは言わない」、「会社に不満のあるものは、やめてもらう」という態度で、職場の民主化や改善を求める労働組合に対して徹底的な弾圧を強めています。

「三戸社長」

従業員いじめはやめて

……会社のために頑張っている私たちを虫ケラ同然に扱わず前向きに考えて欲しい。従業員の切実な要求に「一切聞く耳をもたない」という態度で接される社長に、非常に憤りを感じるからです。……現在、地労委に、会社の法律を無視した労働者の処分・差別に対し、「あっせんの申請」をしてきましたが、学校は、話し合いでの解決姿勢がなく違法の「やり徳」という態度で、まったく聞き入れません。私たちの切実な闘いに、ご町内のみなさんのご理解とご支援をお願いします。

===総評・全国一般労働組合福岡支部===

抗議先

福岡市城南区田島二丁目二六~四三

TEL 八二一~一七四一

代表取締役 三戸道雄

〈2〉 2年9月1日配布のビラ(抜粋)

全国一般・西福岡自動車学校分会の闘いの経過と支援のお願い

……西福岡自動車学校分会は、……会社側の組織潰しを目的とした不当処分・不当労働行為に対し連日闘いを進めています……。

組合潰しを目的に賃金差別を

……組合要求にケチをつけ……「ゼロ回答」を三回も続け……意図的に差別が行われています……。

組合員のみ業務停止・処分を強行

……検査業務に携わる二名の組合員に対し「検定業務停止・手当のカット処分」を通告し、さらに、……検定審査試験を……受験させない旨通告し、不当労働行為を平然と行っています。

夏季一時金も差別支給を強行

……夏季一時金でも三万円から四万円の引き下げを強行し……労働協約も一方的に破棄を通告して対決姿勢を強めています。

不当労働行為撤回・闘争勝利に支援を

(15) 「社友会NEWS」

社友会は、それまで機関誌やビラなどを発行したことはなかったが、会社と組合の一連の紛議が続くなか、2年7月から10月にかけて、労使紛争に関する記事を中心に掲載した「社友会NEWS」と題した次のようなビラを会員に向けて発行した。

〈1〉 2年7月9日付「社友会NEWS」(抜粋)

1990・7・9

社友会 NEWS

社友会代表

高橋謙二

会社からのお知らせについて

(組合による、会社誹謗のビラ配布)

見出しのとおり、会社側から社友会に対して、次のような示達事項がありましたのでお知らせします。

組合では、今次のベア交渉にともなう未解決問題を、一方的に会社の責任と決め付け、あらゆる嫌がらせを行っています。別添のビラは、社長の自宅周辺に昨日配布されたものです。……柄の悪さと考えの古さで定評のある、総評・全国一般労働組合の常套手段です。……

なお、「社友会NEWS」のスタイルは本ビラと同様であるので、以下記事の内容のみ抜粋して掲記する。

〈2〉 2年8月28日付「社友会NEWS」

労使紛争に関する質疑応答について(NO1)

……今回の労使紛争は長期化することが予想されますので、私たち社友会会員が日頃疑問に思っていることや、不明な点などを会社側にお尋ねし、質疑応答の形式で随時社友会ニュースに掲載することにしました。

質問―3

組合側は赤旗掲載や腕章着用を長期間続けていますが……今回会社はどう対応されるのでしょうか。

回答―3

……会社では、今までのような安易な妥協をすることは全然考えていませんし、就業規則違反として組合員全員を懲戒処分とすることにしています。

〈3〉 2年9月5日付「社友会NEWS」

労使紛争に関する質疑応答について(NO2)

質問―1

組合は、社長が団交に出席しないのは誠意がないからだといっているようですがどう考えておられますか。

回答―1

社長は多忙な業務の合間をみて、何度か団交に出席していますし、常時、常務や校長が出席しています。しかし、組合側は、総評・全国一般のトップである委員長は団交に1回も出席したことはなく、いつも、NO2のウソつき書記長が出席してお茶をにごしています。

〈4〉 2年9月12日付「社友会NEWS」

労使紛争に関する質疑応答について(NO3)

質問―5

当校の組合員は主体性もなく、ただ上部組合(総評・全国一般)の指令のまま動いているようですし、毎月高額な組合費まで納入してただ闘争をしているように見受けられますが、何か得るところがあるのでしょうか。

回答―5

まったく得るところはないと考えています。……組合員は今だに昔の夢を追い続けているに違いありません。……しかし、会社の足を引っ張るような組合(員)には決していい目を見せてはいけないと思っています。今後社友会のなかから優秀な人材をどんどん抜擢していきたいと思っています。……こうなっては高い組合費もまったく掛け捨てではないでしょうか。

〈5〉 2年9月19日付「社友会NEWS」

労使紛争に関する質疑応答について(NO4)

質問―2

教習生の方から、「先生で腕章を着けている人と、着けていない人とどう違うのですか」という質問がありましたが、どのように説明したらいいでしょうか。

回答―2

指導員の中にもいろいろな人がいます……教習生から見てよい指導員と悪い指導員の区別がなかなかつかないでしょう。それで一目で判るように腕章を着けさせているのです。……

〈6〉 2年9月26日付「社友会NEWS」

労使紛争に関する質疑応答について(NO5)

質問―4

今回会社から支給された早朝教習協力金について、組合側はとやかく言っていると聞きましたが、働かないでいろいろ言うのはおかしいと思いますが。

回答―4

全くそのとおりで、働かないで金だけくれと言うのは乞食根性の最たるものです。上部組合の専従者はプロの労働運動者です。この人達は如何に働かないで、如何に楽をして如何に多くの賃金を得るかに腐心するのです。……

〈7〉 2年10月6日付「社友会NEWS」

労使紛争に関する質疑応答について(NO6)

質問―5

ここまで闘争が長引けば、当然組合員は全員クビを覚悟で闘っていると思いますが、家族の者には何と説明しているのでしょうか。

回答―5

……家族に本当のことを言っている人は少ないと思います。組合の役員が組合員に対して、「会社の幹部になるのか、組合の幹部になるのか。」という意味の発言をしたと聞いています。このことは二者択一の問いかけで中途半端は有り得ないということです。組合員でいる限り、会社の幹部になることは当然あきらめてもらうしかありません。そのことが十分判った上での組合役員の発言だと理解しています。

(16) 労働協約の破棄

2年8月27日、会社は、労働条件の変更等に関する事前協議を取り決めた労働協約を、期間満了とともに破棄する旨組合に通告した。この協約破棄の理由について会社は、組合による無許可集会の開催や会社を誹謗中傷するビラの配布などによって組合との信頼関係が失われたためであると組合に説明した。

(17) 赤旗掲揚闘争の中止

赤旗掲揚闘争が開始されて以降、分会による赤旗の掲揚と会社による撤去が連日繰り返され、この間会社は、分会に対し赤旗の掲揚を止めるよう繰り返し警告を発した。組合は、2年9月10日、赤旗の掲揚に伴う会社との無用のトラブルを避けるため同日をもって赤旗の掲揚を中止することを決めたが、一方、腕章着用については、春闘問題についての会社の回答に前進がないとして引き続き闘争を続けることとした。

(18) 懲戒処分

ア 2年9月、分会は、赤旗掲揚闘争の中止に先立って役員の改選を行ったが、会社は、これを機にそれまでの赤旗・腕章闘争及び7・7集会の開催に関し関係者の処分を行うことを決め、同月25日、下記のとおり役員改選前の分会役員6名を譴責処分に、また、分会組合員23名を戒告処分に付した(以下「第1次懲戒処分」という。)。

〈懲戒処分の内容〉

被処分者の氏名

役員改選前の分会における地位

処分理由

処分内容

石橋義則

分会長

〈1〉平成2年5月19日から同年9月10日までの間、赤旗・腕章闘争を指導するとともにこれに参加し、また、この間会社の度重なる中止警告を無視した。

〈2〉平成2年7月7日、無許可集会を開催し、分会組合員に対し同集会に参加するよう指導した。

〈1〉就業規則第62条に定める譴責処分

〈2〉譴責処分に伴う始末書の提出

(提出期限、平成2年10月1日)

中島直人

副分会長

同上

同上

佐々木俊郎

分会書記長

森田秀久

分会執行委員

笠幸満

同上

中田富久

浦田弘道

分会組合員

平成2年5月19日から同年9月10日までの間腕章着用闘争に参加し、また、この間会社の度重なる中止警告を無視した。

〈1〉就業規則第62条に定める戒告処分

〈2〉戒告処分に伴う反省文の提出

(提出期限、平成2年10月1日)

今野健吾

同上

同上

同上

服部穂津雄

船越幸光

大隅隆

浦正美

山津博

成田武澄

吉川和宏

小佐井昇

藤川義礼

井手徹志

稲益潔

津田正清

光益修一

三砂林蔵

梶原一男

柳瀬和豊

近藤好昭

池田嗣男

広田武彦

丸山寛治

小田原忍

なお、第1次懲戒処分の対象となった事実と会社が適用した就業規則の該当条項を対照列記すれば次のとおりである。

懲戒処分の対象事実

就業規則の該当条項(抜粋)

赤旗の掲揚

◎第42条(許可事項)

次の各号の一つに該当する事項は、あらかじめ会社に申請し許可を得なければ、これをなすことができない。

(1)略

(2)業務に関係ない文書・物品等を会社の施設・コースや車両内に持ち込み、または配布・貼付・掲示その他これに類似の行為をすること。

なお、会社が許可を与えた場合においても、内容・場所等につき不適当と認めたときは、その行為を差し止めまたは修正その他適宜に指示を与えることがある。

(3)(4)略

◎第61条(懲戒事由)

社員が次の各号の一つに該当するときは審議のうえその情状に応じ懲戒に処する。ただし、その程度が極めて軽微で、かつ改悛の情が顕著であると認められるときは、訓戒に止めることがある。

〈1〉服務規定その他本規則により遵守しなければならない事項に違反したとき。

〈2〉~〈22〉略

腕章の着用

◎第42条

(2)同上

◎第40条(信用・名誉に関する遵守事項)

社員は品性を正しくし、次に掲ぐる各号を守らなければならない。

(1)~(5)略

(6)勤務中は制服を着用し、身だしなみに配慮すること。

(7)略

◎第61条

〈1〉同上

7・7集会

◎第42条

(3)会社の施設・コース・車両内等で、政治活動をしたり、集会・大衆行動・宣伝活動を行うこと。

◎第61条

〈1〉同上

赤旗の掲載及び腕章の着用に対する会社の警告無視

◎第61条

〈7〉職務上の指示命令または本規則に正当な理由なしに従わなかった場合。

また、就業規則の懲戒の方法に関する規定は次のとおりである。

〈抜粋〉

第62条(懲戒方法)

懲戒は、その事由及び程度によって次の各号に定める種類とする。ただし、事実関係が軽微な場合は、注意(口頭または文書をもって戒める。)あるいは戒告(文書をもって戒め、反省文を提出させる。)に止まることがある。

(1)譴責

文書をもって叱責し、請書として始末書を提出させて将来を戒め、人事考課の評価減点とする。

(2)~(6)略

ちなみに、会社では昭和49年に分会が結成されて以降、昭和51年同55年、同56年及び同62年の各春闘時に組合の赤旗・腕章闘争が実施されたが、この間の闘争では、赤旗の撤去や腕章の取外しについて会社から注意や警告がなされたことはあるものの、懲戒処分がなされたことはなかった。

(19) 1990年春闘の妥結と腕章着用闘争の中止

組合は、2年5月30日に会社が賃上げの有額回答を行って以降も、回答の上積みを求めて交渉を重ねたが進展はなかった。組合は、翌3年4月4日に開催された団交において、賃上げ問題についてけじめをつけたいとして、前年5月30日の会社の賃上げ回答どおりで妥結したいと述べるとともに、腕章着用闘争についても当日をもって中止すると通告し、春闘問題は解決した。

なお、組合が赤旗・腕章闘争を実施している間、教習生の中には、会社の窓口に対し「どうして腕章着用が行われているのか」、「腕章を着用している者の名前を教えてほしい」、「いつまでこのような状態が続くのか」といった質問を寄せ、労使紛争が続くことに対する不安を訴える者や、会社が教習生に対して行っているアンケート調査の中で、赤旗・腕章闘争に対する嫌悪感を表明する者もいた。

(20) 不当労働行為救済申立事件の和解

3年5月2日、前記(11)に掲記の平成2年(不)第7号不当労働行為救済申立事件に関して、当委員会において当事者間に和解が成立し、申立ては取り下げられた。

本件和解は、組合が救済を求めていた技能検定員に対する検定業務の停止措置及び技能指導員に対する技能検定員審査受審のための推薦拒否問題について、会社が実質的な解消措置をとることや、会社が従前から組合に要望していた同盟罷業の事前通告制について、双方が早急に労働協約を締結することなどを取り決めたもので、和解協定書の前文では次のように謳われた。

〈和解協定書前文〉

「上記当事者間の福岡労委平成2年(不)第7号不当労働行為救済申立事件について、労使双方は、今後の経営を取り巻く環境が厳しさを増すことに鑑み、本件の発生により生起した一切のいきがかりを氷解し、将来の正常な労使関係の確立と社業の発展を図るため、下記のとおり和解協定する。」

(21) 懇親会

3年5月18日、会社と組合は、前記和解の成立を受けて意思疎通を図るための懇親会を開催した。この会合には、会社からは社長以下役員が、また、組合からは浦書記長(平成2年9月に書記長に就任)と分会執行部全員が出席し、労使関係の正常化に向けて双方が努力することや、労使間に紛争が生じた場合は話し合いによる解決に努めることなどが確認された。

(22) 懲戒処分

3年6月10日、会社は、第1次懲戒処分以降の腕章着用闘争及び第1次懲戒処分に際し命じた始末書または反省文の不提出並びにこれらに対する会社の警告無視などを理由に、下記のとおり分会役員及び分会組合員27名全員(第1次懲戒処分後2名の分会組合員が退職)を譴責処分に付した(以下「第2次懲戒処分」という。)。

〈懲戒処分の内容〉

被処分者の氏名

分会における地位

処分理由

処分内容

石橋義則

分会長

〈1〉平成2年9月11日から同3年4月4日までの間、腕章着用闘争を指導するとともにこれに参加し、また、この間会社の度重なる中止警告を無視した。

〈2〉平成2年9月25日付懲戒処分によって始末書の提出を求められたにもかかわらず、会社の再三にわたる警告を無視しこれを提出しない。

〈1〉就業規則第62条に定める譴責処分

〈2〉譴責処分に伴う始末書の提出

(提出期限、平成3年6月17日)

藤川義礼

副分会長

〈1〉同上

〈2〉平成2年9月25日付懲戒処分によって反省文の提出を求められたにもかかわらず、会社の再三にわたる警告を無視しこれを提出しない

同上

佐々木俊郎

分会書記長

〈1〉同上

〈2〉石橋義則に同じ

森田秀久

分会執行委員

同上

中田富久

同上

近藤好昭

〈1〉同上

〈2〉藤川義礼に同じ

中島直人

分会組合員

〈1〉平成2年9月11日から同3年4月4日までの間、腕章着用闘争に参加し、また、この間会社の度重なる中止警告を無視した。

〈2〉石橋義則に同じ

笠幸満

同上

同上

浦田弘道

〈1〉同上

〈2〉藤川義礼に同じ

今野健吾

同上

服部穂津雄

船越幸光

大隅隆

浦正美

山津博

成田武澄

吉川和宏

小佐井昇

井手徹志

稲益潔

津田正清

光益修一

三砂林蔵

梶原一男

柳瀬和豊

池田嗣男

広田武彦

第3判断及び法律上の根拠

1 本件懲戒処分の理由となった組合の行為について

(1) 赤旗・腕章闘争について

ア 申立人の主張

本件赤旗・腕章闘争は、春闘要求の実現や検定業務の停止を始めとする不当な処分に対処することを目的として行ったものであり、正当な組合活動である。また、分会では、従前から春闘時に赤旗・腕章闘争を実施してきたが懲戒処分が行われたことはない。

イ 被申立人の主張

〈1〉 労働組合による会社施設を利用した無許可の組合旗掲揚は、会社の施設管理権を侵し企業秩序を乱すものである。また、組合員が勤務時間中に腕章を着用して就労することは、職務専念義務や服装規定に違反する。

〈2〉 申立人は、過去の赤旗・腕章闘争に対しては処分が行われたことはないと主張するが、今回の闘争は、長期に亘った点において従前のものとは形態を異にする。

〈3〉 申立人は、平成2年5月18日の団交において賃上げの有額回答を猶予する姿勢を示したにもかかわらず、これを無視して赤旗・腕章闘争を開始したものであるから、この意味からも正当性は否定さるべきである。

ウ 判断

一般に、労働組合による企業施設を利用した組合旗の掲揚は、争議時における組合員の士気の高揚や団結意識の強化、組合要求の実現などを目的として行われている。また、労働組合が行ういわゆる腕章着用闘争は、勤務時間中に平常は着用しない腕章を組合員が着用し、かつ、その腕章に組合名やスローガンを記載することにより、使用者に常時組合の存在や要求を意識せしめ心理的圧力を加えて争議を有利に導くことなどを意図して行われている。これらの組合活動は、いずれも基本的には団結権ないしは団体行動権行使の一態様として理解するのが相当であり、これが使用者の有する施設管理権や就業規則に抵触する場合その当否は、労働協約等における合意や労使慣行の有無ないしは従前の取扱い、目的、必要性、態様及び具体的業務阻害の程度などを総合勘案して判断さるべきである。

これを本件についてみるに、分会は、春闘要求に関する交渉を進める中、2年5月18日、事前に組合が発した指令に基づき、分会組合員の連帯意識の強化や賃上げ交渉の促進などを目的として、赤旗・腕章闘争を開始することを決め、翌日これを会社に通告のうえ、赤旗の掲揚闘争については同年9月10日迄、腕章の着用闘争については春闘問題が妥結する翌年4月4日迄継続している。

会社は、組合は2年5月18日の団交において賃上げの有額回答を猶予する姿勢を示していたにもかかわらず、これを無視して赤旗・腕章闘争を開始したものであり、この意味からも、本件闘争の正当性はない旨主張する。確かに、2年5月18日の団交の席上組合側の責任者である浦書記次長は、会社が次回団交での有額回答を約束したことを受けて、「……次回団交で有額回答が提示されない場合は赤旗・腕章闘争をと思っている。」と発言しており、かかる団交での経緯にもかかわらず、分会がその翌日から赤旗・腕章闘争を開始したについては唐突の感は否めず、会社が組合の対応に不信感を抱くことも相応に理解できないわけではない。

しかしながら、元来、組合の闘争戦術は組合の自主的判断で決定し得べきものであり、2年5月30日に会社の有額回答があって以降は、労使の賃上げ交渉が膠着状態となっていることや、2年6月7日に組合が、赤旗・腕章闘争に対する会社の対応に抗議して、争議行為の実施を示唆する通告を会社に行って以降は、会社は、分会組合員に対し検定業務の停止や技能検定員資格審査受審のための推薦拒否等の報復的な対抗措置を採るなど、労使の対立が先鋭化していった経緯に鑑みると、組合が本件赤旗・腕章闘争を継続したことについては、これを止むを得なかったものとみざるを得ない。

次に、本件赤旗・腕章闘争の態様についてみるに、組合が掲揚した赤旗は、会社の表門及び裏門付近に1本ずつであり、両掲揚の場所が通行量の多い通りに面していたことを考慮しても、かかる掲揚によって会社施設の景観が損なわれたり、あるいは通行人や来客の中に若干不快を感ずる者がいたとしても、これが会社の業務運営に特段の支障を生ぜしめたとみることはできない。また、腕章についても、その着用が形式的には会社の服装規定に抵触するとしても、組合は、検定業務に従事する者や受付業務に就く者についてはこれを着用の対象から外すなど一定の配慮を行っており、その形状や記載内容も社会通念を逸脱するものとはいえず、教習生の一部に主観的には不快を感ずる者がいたとしてもこれが職務遂行上格別障害となったり、会社の業務運営に特段の支障が生じたとの事実は認められない。

さらに、組合は、昭和49年に分会を結成してて以降、昭和51年、同55年、同56年及び同62年の各春闘時にも赤旗・腕章闘争を実施しており、会社は、これらの闘争に対しては中止の注意や警告は行ったものの、懲戒処分で臨んだことはなかったことが認められる。このように、今回の闘争が上記のような過去の経緯をも踏まえて実施されたものであってみれば、これらの問題について今日まで労使間にルール等の確立がなされないまま来たなかで、会社が、今回の闘争に対し率然として懲戒処分を以て臨んだについては性急に過ぎる対応であったというべきである。

(2) 7・7集会について

ア 申立人の主張

2年7月7日の集会は、分会が主催したものではないから、その開催に関し分会役員に責任を問うことはできない。

イ 被申立人の主張

労働組合による会社施設を利用した無許可集会の開催は、会社の施設管理権を侵し企業秩序を乱すものであるから、正当な組合活動とは言えない。また、申立人は、本件集会は分会が主催したものではないとして責任を回避するが、同集会には分会組合員の殆どが出席し、分会役員が集会の場であいさつを述べている点などからみて、同集会の開催に分会が関与していることは明らかである。

ウ 判断

前記のとおり、組合は、7・7集会は分会が主催したものではないから、その開催に関し分会役員に責任を問うことはできない旨主張する。

しかしながら、分会は、労働組合としての組織的実態を有していることが窺えるのであって、分会は、自らの活動の場である会社の構内において行われた集会につき、それが上部団体の主催であったとはいえ、分会役員以下分会組合員の多くがそれに参加している以上、その主催者ではないとの理由のみをもって開催に関する一切の責任を回避し得るものとは解されない。

ところで、企業内労働組合が主体である我が国においては、労働組合がその活動の場を使用者の施設内に求めざるを得ない場合が多く、企業の場を利用した労働組合の集会がしばしば見受けられる。かかる集会は、その場に応じて目的も多様であるが、特に争議状態下において行われる集会は、組合員の士気の高揚を図ったり気勢を上げるなどの目的で行われており、これが使用者に対する示威的効果を伴う場合が多い。このような組合活動は、基本的には団結権ないしは団体行動権行使の一態様として理解するのが相当であり、これが使用者の有する権利に抵触する場合、その当否は、それが開催されるに至った事情や集会の態様、また、これによる具体的業務阻害の程度など当事者の実質的な利害を比較衡量して決せらるべきである。

これを本件についてみるに、7・7集会は、春闘問題の進展を図ることや会社の労務政策に対する抗議を目的として開催されたものであるが、当時、会社では賃上げをはじめとする春闘問題が未解決であったことや、組合の赤旗・腕章闘争に対し会社が分会組合員への締付けを強めていたこと、また、分会組合員に対し検定業務の停止や技能検定員資格審査受審のための推薦拒否の措置がとられるなどして労使関係が先鋭化していたことなどの事情に照らせば、組合が団結維持の必要からこれらに対し何らかの対応を迫られていたであろうことが推察され、また、このような事情の下で分会の上部団体である支部が、本件集会を実施するに至ったについては、会社の労務政策に起因する一面も窺える。

次に、本集会には、分会組合員をはじめ会社外の他分会の組合員など組合傘下の労働組合員約120名が参集し、宣伝カー1台と赤旗約10本が持ち込まれているが、労働組合にとって支援の組合員などとの連携や協力は不可欠のものといえ、集会の態様も社会通念を逸脱するものであったとまではいえない。

さらに、集会は、会社の終業時刻後に屋外で開催されたもので、45分間程で散会しており、この間何ら会社とのトラブル等も生じておらず、本集会の開催により会社の業務運営に特段の支障が生じたとも認められない。

しかしながら、前記第2の2、(10)に認定の如く、分会は、会社の施設を利用して集会などを行う場合は、事前に会社の許可を得てきた経緯があることからすれば、会社施設の利用に関し形成されてきたかかる労使間のルールは、たとえ争議状態下にあっても極力尊重さるべきであったというべきである。いわんや本集会が支部の主催により社外の組合員なども動員した従来にない形態のものであったことを考慮すると、支部ないし分会は、本集会の開催に当たっては、仮にそれが期待できない状況下にあったとしても、会社の許諾を得るための努力をなすべきであったものというべきであり、かかる何らの働きかけもせず、しかも本集会開催の事前通告を行うなどの配慮もなしていないこと等を考慮すれば、本集会の開催に関しては、その開催手続の面において支部ないし分会に責めらるべき非があったものといわなければならない。

2 和解について

申立人は、3年5月2日に成立した和解協定書は、その前文で「……本件の発生により生起した一切の行きがかりを氷解し……」と謳っているように、労使は本協定により従前の紛争を全面的に和解したものであるから、本和解成立以前に生起した赤旗・腕章問題や組合集会の問題を取り上げて懲戒処分を行うことは当該協定に違反するものであり、被申立人がかかる協定を無視してあえて懲戒処分に及んだのは、組合の壊滅を狙ったものであり、不当労働行為を構成すると主張する。

確かに、当該和解協定書の前文は、双方が労使関係正常化への責務を確認し合ったものとみることができ、また、第2次懲戒処分がなされた経緯をみれば、これが和解成立を受けて持たれた労使の懇親会の直後になされているだけに唐突の感は否めない。

しかしながら、前記認定のとおり、当該和解協定は、分会組合員に対する検定業務の停止措置や技能検定員審査受審のための推薦拒否問題などについて、会社が実質的な解消措置をとることや、同盟罷業の事前通告制の協定化などについて取決めを行ったものであり、本件懲戒処分の理由となった事項については、直接には和解の対象とはなっていないから、かかる協定の成立をもって、会社がこれらの問題についての問責を直ちに放棄したものとみることはできない。

3 本件懲戒処分と不当労働行為の成否について

(1) 組合旗の掲揚及び腕章の着用並びに組合集会の法的評価ないし正当性の判断基準については、前記判断1、(1)、ウ及び同(2)、ウで示したところであるが、一方、使用者は、その物的施設を企業目的のために管理し運営する権限を有するとともに、職場秩序維持のための服務規律などを定める権限を有するものであるから、かかる施設管理権に対する侵害や労働契約上の義務に違反する行為に対しては、企業秩序維持の観点からその必要性の範囲内において、これらの行為を禁止または排除するための措置をとったり、あるいは就業規則などの定めるところに従いこれに懲戒などの制裁を課し得るものといえる。

以上の観点から以下判断する。

(2) 第1次懲戒処分について

会社は、第1次懲戒処分において、分会役員6名を、〈1〉2年5月19日から同年9月10日までの間の赤旗・腕章闘争への参加及び指導並びにこれらの闘争に対する中止警告の無視、〈2〉7・7集会の開催及び分会組合員に対するこれへの参加指導を理由に譴責処分(始末書の提出を含む。)に付すとともに、分会組合員23名を、2年5月19日から同年9月10日までの間の腕章着用闘争への参加及びこれに対する中止警告の無視を理由に戒告処分(反省文の提出を含む。)に付している。

そこでまず、分会役員6名に対する譴責処分についてみるに、本件赤旗・腕章闘争については、前記1、(1)、ウで判断のとおり、これをめぐる労使の関係を実質的、総合的に斟酌すれば、会社が、これに譴責処分をもって臨むのは相当でない。しかしながら、7・7集会の開催に関しては、前記1、(2)、ウで判断のとおり、その開催手続面において支部ないし分会に非が認められ、また、譴責処分自体特に過重なものとまではいえないことなどを勘案すれば、分会役員6名に対する本件処分が相当性を欠くものとまではいえない。

次に分会組合員23名に対する戒告処分についてみれば、本件腕章着用闘争については、上記分会役員に関する判断で述べたとおりであるから、これを戒告処分の理由とするのは相当でない。

そうしてみると、前記第2の2、(15)に認定の、本件第1次懲戒処分が実施された当時発行されていた一連の社友会ニュースを通じて表明された会社の社友会優遇、組合敵視の顕著な姿勢に鑑みれば、分会組合員23名に対する戒告処分は、組合嫌悪の意思に基づいて殊更分会組合員を不利益に取り扱う意図の下になされたものというべきであって、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と判断する。

他方、分会役員6名に対する処分については、会社の組合敵視の姿勢を考慮してもなお7・7集会の開催に関する責めは免れず、その処分が譴責であるとしても、未だこれを不当労働行為と断ずることはできない。

(3) 第2次懲戒処分について

次に、第2次懲戒処分について検討するに、会社は、分会役員6名については、2年9月11日から3年4月4日までの間の腕章着用闘争の指導及び参加並びにこれに対する中止警告の無視を、また、分会組合員21名については、2年9月11日から3年4月4日までの間の腕章着用闘争への参加及びこれに対する中止警告の無視をそれぞれ処分理由とするとともに、これに加えて分会役員及び分会組合員全員について、第1次懲戒処分において命じた始末書ないしは反省文の不提出を理由として譴責処分に付している。

そこで以下検討するに、本件腕章着用闘争を懲戒処分の理由とすることが相当性を欠くものであることは前記(2)で判断のとおりである。

次に、始末書ないし反省文の不提出に関しては、一般に使用者は、労働者に非違行為があった場合就業規則の定めに基づきかかる書面の提出を命じ得るものと解されるが、労働者がこれに応じなかったとしても、これを理由として更に懲戒処分を行うことはすでになされた懲戒処分を累加することに帰し合理性を欠くものと解する。そうしてみると、本件第2次懲戒処分の理由については、いずれも合理性ないし正当性がないものというべきである。

ところで、第2次懲戒処分が行われた当時の労使の事情についてみれば、組合は、春闘の妥結に伴って第2次懲戒処分が実施される2カ月程前の3年4月4日には腕章着用闘争を中止し、5月2日には、当時の労使の懸案事項について当委員会において和解が成立している。この和解は、先に判断の如く、このことによって会社が腕章着用闘争に対する問責を放棄したとまではいえないにしても、この和解を契機として双方が労使関係の将来に向けた正常化への責務を確認したものと認められ、同月18日にはこの和解の成立を受けて懇親会が持たれ、そこでも労使関係の正常化が双方で確認されている。

このような労使の事情に鑑みれば、会社が、腕章着用や始末書ないし反省文の不提出をこの時点で改めて問題とし問責したについては、形式的かつ硬直的に過ぎるというべきである。

そこで、会社が第2次懲戒処分を実施するに至った真の意図の所在につき検討するに、前記第2の2(15)に認定の一連の社友会ニュースを通じて表明された、会社の社友会優遇、組合敵視の顕著な姿勢に鑑みれば、本件第2次懲戒処分は、組合を嫌悪する会社が、ことさら組合員に不利益を与える意図をもってなしたものというべきであり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と判断する。

4 法律上の根拠

以上の次第であるから、当委員会は、労働組合法第27条及び労働委員会規則第43条に基づき主文のとおり命令する。

平成5年6月21日

福岡県地方労働委員会

会長 高橋貞夫

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